文・写真:金子 浩久

今回の話題はフルモデルチェンジしたBMWのコンパクトSUV『X1』

あらためて振り返る我が愛車・ポルシェ ボクスターの進歩

 いま乗っている718ボクスターの前にも、僕は初代ボクスターの最終モデルに12年間乗っていました。ボディスタイルやミドエンジンの2シーターコンバーチブルという構成こそ変わらないものの、718ボクスターは4世代目に当たるため、内容は大きく進化しています。

 最も大きく変わったのはエンジンです。初代ボクスター最終型は自然吸気タイプの2.7リッター6気筒をミドに積んで後輪を駆動していましたが、これがターボ過給された2.0リッター4気筒に変わりました。高性能版のSでも2.5リッターで、ターボが2基に増えます。排気量と気筒数縮小の狙いは、もちろんダウンサイジングによるCO2削減のためです。しかし、排気量を削減したのにもかかわらず、ターボで過給することによって最高出力は228馬力から300馬力に大幅アップ。

ボクスターがリアミッドに搭載するコンパクトなエンジンも、いまや往年のスーパーカークラスの300PS

 トランスミッションも、すでに2世代目で別物に進化していました。初代はトルクコンバータータイプの5速ATでしたが、718は7速AT。それも、ポルシェがルマン24時間などのレースで開発を続けてきたツインクラッチタイプの「PDK」です。トルクコンバータータイプとは違って、つねにギアとギアが噛み合いながら、変速タイミングをセンサーとコンピュータが測り、小型ロボットのようなものが2つのクラッチを用いて瞬時にギアを切り替えていきます。

 変速スピードが速い上に賢いので、燃費も向上します。僕の場合は初代が7~8km/l(一般道)、10km/l前後(高速道路)だったのに対して、718は10km/l前後(一般道)、13~14km/l(高速道路)と約3割も向上しました。それは、エンジンとトランスミッションの進化だけでなく、アイドリングストップシステムの採用や走行中のコースティングなどによる効能も大きいからに違いありません。

 718を注文するに当たって、ぜひとも装着したいオプションがありました。ACCです。アダプティブクルーズコントロールは、高速道路や自動車専用道で、任意に設定した最高速度に従って、車間距離を一定に保ちながら前を走るクルマに追従することができます。渋滞で停止しても、それに合わせてこちらも減速し、車間距離も詰めて停まります。再スタートも、最新のクルマでは特に操作も必要なく前のクルマに付いていきます。

ACC(アダプティブクルーズコントロール)はハンドル左のこのレバーで操作する

 渋滞中の煩わしさから解放されるのとともに、ACCは特に長距離走行で大きな効果を発揮します。空いた高速道路や自動車専用道を順調に走っていても、自分の脳と眼と右足はつねに働いているものです。ACCは、その何割かを肩代わりしてくれますから、走行後の疲れが全然違います。

クルマのプロはADAS装着を推す

 2000年代前半に、メルセデスベンツEクラスに初めて搭載された「ディストロニック」という名前でACCを初めて体験し、その後、各社のACCを試しましたが、効果は絶大です。疲労の軽減の他にも安全や省エネなどへの貢献も大きく、次に自分のクルマを買う時には欠かせない装備の筆頭に挙げていたのがACCだったのです。

写真は718ボクスターのACC作動時のモニター。この設定では最高時速59km/hで前方車両を追従する。アクセル・ブレーキの操作は必要ない

 こんにちでは、ACCは広くADAS(運転支援システム)と呼ばれる機能の中のひとつに含まれるようになりました。他に、LKA(レーンキープアシスト)やLCA(レーンチェンジアシスト)なども登場し、次々と装備されていくクルマが増えていっています。ACCが走行をセンサーとコンピュータによって前後方向に制御するのに対して、LKAやLCAなどは左右方向に制御するものと考えて間違いありません。僕が718を注文しようとしていた時には、まだLKAやLCAなどはオプション装備に設定されていませんでしたが、あれば迷うことなく注文していました。

 早トチリして、「スポーツカーは運転を楽しむためのクルマなのだから、ADASなんてナンセンス」だとか、「ADASを使ってみたけれど、かえって集中しなくなるから眠くなる」と言う人がいます。

 それらには賛同できません。渋滞にも遭うわけだし、混んだ流れの中をただただ走らなければならない時もあるのが自分の日常で、“運転を楽しめる”ことの方がむしろ稀だからです。クルマのCMに出てくるような風光明媚な道や夜の空いた首都高速などでは、ADASをオンにしなければ良いだけのハナシですよ。

 ADASを使って眠くなったこともありません。そもそも、レベル2という国際基準に収まっている現在のADASでは、ドライバーは運転から解放されるわけではなく、周囲に注意を払いながら主体的に運転しなければなりません。だから、運転“支援”と呼ばれるのです。眠くなるのはADASだけが理由なのではなく、前夜の寝不足やランチの食べ過ぎ、あるいはその日の体調などが理由なのではないでしょうか。スポーツカーであろうがなかろうが、ドライバーの負担軽減、安全と省エネのためにADASは必須の装備だと考えています。

「ADASはめんどくさい」という気持ちはわかる

 前述の通り、ほとんどのADASはレベル2と呼ばれる水準にあり、完全自動運転への道のりはまだまだ遠いものがあります。ADASを働かせていても、ドライバーによる運転操作を行わなければなりません。ACCによって右足はペダルから離し、LKAやLCAなどによってハンドルへは軽く手を添えているだけだったり、渋滞時には手を離しても構わなくなっています。それでも、ドライバーは前を向き、前方やミラーに映る側方や後方の様子を注視し、ADASからいつでも自分による運転に戻ることに備えていなければなりません。だから、クルマに任せっ放しにはできません。

 それを知ると、これも早トチリしてADASを使おうとしない人が現れます。それに関しては僕は同情的で、気持ちはわかります。なぜならば、ADASを使える状況になったかどうか判断し、ややこしい操作を経てADASをオンにして走っても、すぐにオフにせざるを得なくなったり、なかなかオンにできなくなったり、ちょっと面倒臭いことは確かなのです。スイッチなどで保留せず、忘れたり慌てたりしてうっかりとフットブレーキを踏んでしまうと最高速度や車間距離などの設定がすべてキャンセルされてしまって、また最初からやり直さなければならなくなったりもします。そうした、ADASのドライバーインターフェイスの煩わしさを一気に進化させたのが、先日に試乗したBMWの新型X1でした。