文=渡辺慎太郎

8代目として生まれ変わったBMW新型5シリーズ。ボディは全長が5mを超える堂々たるサイズとなった

ポルトガル・リスボンで!

 BMWの新型5シリーズに試乗するために、ポルトガルはリスボンまで行ってきました。なぜ故に国際試乗会の場所としてリスボンを選んだのか。BMWが出資するソフトウエア開発会社がリスボンに拠点を持っているからだそうです。

 インフォテイメントや運転支援システムなど、最近のクルマには実に数多くの電子デバイアスが搭載されていて、それらを統合的に動かすためにソフトウエア開発は以前にも増して重要になっています。BMWは独自のOSを使っていて、新型5シリーズには最新のBMW OS 8.5が採用されているとのこと。スマートフォンがキーの代わりになったり、スマートフォンをコントローラとして車内でゲームが楽しめるなど、クルマとの接し方はどうやら新しい段階に入ったように感じます。

インテリアは7シリーズの風景に酷似したものに。本革を使わない“ビーガンインテリア”を全車に採用した

 新型5シリーズはボディがずいぶん大きくなりました。全長は97mm、全幅は32mm、全高は36mm、ホイールベースは20mm、それぞれ従来型よりも延長され、全長はついに5mを超え、全幅は1900mmに達しています。永遠のライバルと目されるメルセデスのEクラスは全長が4949mm、全幅が1880mmなので、それよりも大きいボディとなりました。プラットフォームは3シリーズや7シリーズと同じものを共有しています。

 1972年に初代がデビューした5シリーズは新型で8代目となりますが、8代目がこれまでと異なるのはBEVをラインナップしている点です。BEVはi5と呼ばれ、ガソリン/ディーゼルエンジンの内燃機搭載車とまったく同じボディにモーターと電池を収めています。内燃機はEクラス、BEVはEQEと、別々のボディを用いるメルセデスとの戦略の違いが興味深いですね。どちらがいいか悪いかではなく、何を優先するのかの違いでしょう。

 BEVにとってもっとも重要な性能である航続距離を少しでも伸ばすために、空力最優先のボディと長いホイールベースを採ったメルセデスに対して、内燃機と共有することでコストを抑え同じような乗り味を実現することに注力したBMW、ということでしょう。

BMWらしいフォルムを継承したエクステリアデザイン。ホイールベースは2995mmで、5mを超える全長に対しては短めだ

挑発的な本体価格

 実際、i5の車両本体価格はかなり挑戦的です。新型5シリーズの日本仕様はすでに発表されていて、ガソリンとディーゼルはいずれも48Vのマイルドハイブリッド仕様で、523iエクスクルーシブが798万円、523iスポーツが868万円、523d xDrive Mスポーツが918万円。i5 eDrive 40エクセレンスが998万円、i5 eDrive 40 Mスポーツも998万円、そしてi5 M60 xDriveが1548万円のプライスタグを掲げています。

 このi5の価格をメルセデスのEQEと比較してみると、EQE 350+が1248万円、AMG EQE53 4MATIC+が1922万円。i5の価格は相当頑張っていることが分かります。

 実は今回の試乗会に用意されていたのはi5の2種類のみで、内燃機仕様は試すことができませんでした。eDrive 40はリヤにモーターを置く後輪駆動で340ps/430Nmを発生。重量は2トンをわずかに超えていますが、重さはほとんど気にならない軽快な動力性能が印象的でした。

 BMWの味が濃厚だったのはM60 xDriveのほうで、こちらはフロントにもモーターを積む4輪駆動です。システム最高出力は601ps、最大トルクは795Nm。スポーツカー顔負けのパワースペックを誇ります。

i5は81.2kWhのバッテリーを搭載。最大航続距離はeDrive 40で582km、M60 xDriveで516kmと公表されている

電動式スタビライザーが標準装備

 “M”が車名に付いているだけあって、シャシーもeDrive 40は若干異なります。前後に電動式スタビライザーを標準装備し、シャシーのあちらこちらに補強も追加されています。ロール方向の動きは巧みに制御され、旋回スピードもeDrive 40より速く姿勢も安定しています。

 これには、状況に応じて前後の駆動力配分を可変させるxDriveの制御の妙もひと役買っているように思えました。ちなみにM60 xDriveにはローンチコントロールが標準装備されており、これを使うと0-100km/hが3.8秒とのこと。これはポルシェ911カレラS(3.7秒)に迫る速さです。

ホイールベースが短いので、後席のレッグスペースはボディサイズから想像するほど広くはない

 ふたつの画面を収めたカーブドディスプレイや、目立たないように配置されたエアコンの吹き出し口、フローティング・センターコンソールなど、インテリアの風景は7シリーズとよく似ています。いっぽうで、新型5シリーズでは“ビーガンインテリア”が全車に採用されました。シート/ダッシュボード/ドアトリム/ステアリングに使われる表皮が本革ではなく、本革のような風合いの人工素材としています。クルマの世界にまで“ビーガン”が入り込んでくるような時代になったんですね。