渡辺 慎太郎:自動車ジャーナリスト

新型Eクラスがフルモデルチェンジを果たし、「Eクラス」と呼ばれるようになってからは6代目となった。ボディサイズは従来型よりも9mm長く30mm幅広く13mm高くなっている
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Cクラスで十分でなのか?

メルセデス・ベンツの新型Eクラスに試乗することができました。クルマそのものの仕上がりももちろん気になりますが、この連載でも以前記したように、個人的には「Eクラス」というモデルの存在意義や存在価値について、なんらかの答えが見つかることを期待していました。いまやCクラスはサイズも機能も性能も(そして価格も)ちょっと前のEクラス並みとなり、「EクラスじゃなくてもCクラスで十分」といった認識が、日本のみならず世界のマーケットに広まっているからです。

結論から言うと、新型EクラスはCクラスよりも明らかに上質・上級なドライバーズセダンに仕上がってしました。プラットフォームはSクラスやCクラスと同じ「MRAⅡ」と呼ばれるものを共有しています。メルセデスは今後、新開発するプラットフォームは基本的にBEV専用のみとすると明言しているので、MRAⅡは内燃機用としては最後のプラットフォームになる可能性が高いと言われています。それだけに、プラットフォーム自体のポテンシャルは相当高く、それはSクラスやCクラスの出来栄えからも明白でした。よってEクラスがそこそこのレベルにあることは想定内であったものの、Cクラス以上Sクラス未満という絶妙なポイントへ見事に落とし込んでいたのです。

走って分かる Eクラスの品質

試乗車にはオプションのエアサスペンションが装着されていて、乗り心地はそれを考慮して評価する必要はあるものの、ボディの動きを緻密にコントロールしていることが伝わってくる、動的質感の高い素晴らしい乗り心地でした。この乗り心地が実現できた理由はエアサスの恩恵だけでなく、そもそもEクラスのボディやシャシーといった体幹がしっかりしていることにも由来していると想像できます。おそらく、エアサスではない標準仕様のサスペンションでも、乗り心地が大きく破綻するようなことはないと考えられます。

乗り味はCクラスよりも高級感があって、しかしSクラスほど重厚ではないという、絶妙な落とし所に収まっていた。周囲の状況次第では自動的に追い越しを行う「自動追い越し機能」など、最新の安全デバイスも装備する
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静粛性の高さも新型Eクラスの特徴のひとつです。特に風切り音の少なさには驚きました。通常、運転していて気になる風切り音は、フロントウインドウやAピラー周辺、あるいはサイドミラ付近で発生しています。新型Eクラスでは、フロントグリルやボンネットやAピラーの形状を徹底的に解析し、空気を整流することで風切り音の軽減に成功したそうです。試乗してみても120km/hくらいまででは、風切り音はほとんど気になりませんでした。加えて、エンジン音も巧みに抑え込まれており、E400e 4MATICなどのPHEVでたまに聞こえてくるエンジン音も、実際にエンジンが搭載されている位置よりもずっと遠くから聞こえてくるようでした。

エンジンは8種類が用意されていて、半分はPHEVとなる。ガソリンとディーゼルの内燃機もISG仕様(マイルドハイブリッド)なので、すべてのパワートレインが電動化された
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新型EクラスのPHEVは、EVモードで約100kmの走行が可能です。これだけ走れると、例えば通勤などのアシとして使うのであれば、ほとんどの場面ではEVとして走行することになるでしょう。ただしその動力性能の味付けは内燃機に寄せたものになっているので、”EVらしさ”はあえて抑え目。エンジンが始動したときとの差をできるだけ少なくするための配慮でしょう。そして、パワートレインや駆動形式が異なっても、エレガントなドライバーズサルーンとしてのテイストには大きな違いがないというのも、新型Eクラスの魅力のひとつなだと感じました。

乗り心地や静粛性といった快適性に関わる性能は、人が“高級感”を感じる重要な要素であり、メルセデスは特にその部分へ注力して開発を進めたようです。結果として新型Eクラスの乗り味は、Cクラスよりも容易に上質感が伝わってくるものであり、かといってSクラスほど重厚ではなく、高級ドライバーズサルーンとして秀逸な完成度に達していました。これなら、「やっぱりCクラスで十分」ではなく、「やっぱりEクラスは違う」ときっとだれもが思うはずです。

いまやCクラスは、ラジエターグリル内にスリーポインテッドスターを収めた仕様しかないが、新型Eクラスにはスリーポインテッドスターがボンネット先端にそそり立つ仕様も用意されている。これも、Cクラスとの差別化のひとつと考えられる
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メルセデス・ベンツにとってのセダンの価値

今回の試乗会では、メルセデスの開発部門のトップにインタビューすることができました。「ビジネスの観点からは、セダンよりもSUVのほうが確実に収益を得やすく、実際メルセデスもかつてないほどのSUVのラインナップを有しています。それでも今回のEクラスのように、セダンでも決して妥協せず世界をリードするレベルを目指そうとするその理由やモチベーションを教えてください」という私からの質問に対して、彼は次のように答えてくれました。

「おかげさまで、メルセデス・ベンツという名前は世界中で幅広く知られるようになりました。そこで、メルセデスを知っている人に、最初に思い付く車名を聞いてみると、ほとんどの方がいまでもSクラスやEクラスといったセダンを挙げるのです。SUVの販売台数のほうが多くても、メルセデスは依然としてセダンのイメージが強いわけです。つまり我々にとってセダンはブランドの象徴であり、その開発の手を抜くことは絶対にできません。セダンに対する評価の低下は、ブランドイメージに直結するからです」

 新型Eクラスは、メルセデスの威信を賭けたモデルでもあったのです。

新型Eクラスで初採用となった“MBUXスーパースクリーン”。ダッシュボード全面を1枚ガラスで覆うEQSやEQEの“MBUXハイパースクリーン”よりも若干簡素でありながらも、圧倒的存在感を放っている
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