文=渡辺慎太郎

レンジローバー・ファミリーに新たに加わった、レンジローバー・スポーツ。エンジンやシャシーは共有しているものの、専用のボディを新たに作り直している

アメリカ向けにつくられた

 ランドローバーは老舗のオフロード4駆メーカーです。そもそもは、1940年代にアメリカのジープに対抗するべく英国で開発された車両が発端で、アメリカ市場向けに作ったレンジローバーが爆発的な人気を博しました。

 当時はまだ、“ヨンク”といえばどこか泥臭い機能性重視の道具のようなクルマが一般的でした。そこに本革シートやウッドパネルなど高級車のしつらえを施した“規格外”の仕様で参入したレンジローバーは、富裕層から絶大なる支持を受けていつしか「ヨンクのロールス・ロイス」と呼ばれるまでになったのです。

 いまでは当のロールス・ロイスがSUVのカリナンを発表してしまったので、そのニックネームは使えなくなってしまいました。

 現在のランドローバーは、レンジローバー/ディスカバリー/ディフェンダーの3つの柱を基にラインナップを展開。レンジローバーはラグジュアリーと洗練性、ディスカバリーはレジャーと多用途性、ディフェンダーはデュアルパーパスと頑強性というように、それぞれのモデルに明確な個性を設けています。

 レンジローバーを名乗るモデルはこれまでにレンジローバー、レンジローバー・ヴェラール、レンジローバー・イヴォーグの3タイプが用意されていましたが、ここに新たに加わったのがレンジローバー・スポーツです。

最新世代の4WDシステムはiAWDと呼ばれ、4輪のグリップレベルやドライバーからの入力を1秒間に100回の頻度でモニタリング、常に最適な前後駆動力を予測的に配分する

新型レンジローバー5代目となる

 レンジローバーは2021年末にフルモデルチェンジを果たし5代目へと進化を遂げています。新型レンジローバー・スポーツの登場はこれを受けてのルーティンではあるものの、その内容には通常ではあり得ないほどのランドローバーのこだわりが見てとれるのです。

 ベースモデルと、それをベースにしたスポーティモデルを作る場合、メルセデス・ベンツのAMGやBMWのMがそうであるように、エンジンやサスペンションを専用のものとするのが通常で、ボディに大きく手をつけることはありません。ところがレンジローバー・スポーツは、レンジローバーとは異なる専用のボディを有しています。

 フロントフェイスとリヤエンドは、レンジローバーよりもわずかにアグレッシブな、でも決してやり過ぎずラグジュアリーな雰囲気を壊さない絶妙な造形で、ボンネットもレンジローバー・スポーツ専用です。さらに、ルーフはリヤへ向かうに従って下降していくヴェラールのようなクーペスタイルが採用されています。レンジローバーの派生車種だからといってコストを重視した最低限の変更に留めることなく、このクルマのキャラクターや性能をエクステリアデザインでも表現しようという彼らのこだわりには恐れ入るばかりです。

エアサスペンションを標準装備し、状況に応じた車高調整がオートでもマニュアルでも可能。後輪操舵も備えているので、5.5m以下の最小回転半径を実現している

レスポンスを重視したセッティング

 エンジンはとりあえずガソリンとディーゼルの2種類があって、いずれも3Lの直列6気筒のマイルドハイブリッド仕様です。ガソリンの400ps/550Nm、ディーゼルの300ps/650Nmという最高出力/最大トルクはレンジローバーと同値ですが、トランスミッションも含んだパワートレインを制御するソフトウエアはレンジローバー・スポーツ用に新たに開発し、特に(ドライブモードによっては)レスポンスを重視したセッティングが特徴です。

 今回試乗したのはディーゼルエンジンを搭載した最上級モデルの『AUTOBIOGRAPHY』でした。室内のデザインは基本的にレンジローバーのそれを踏襲しているので、ラグジュアリーな空気感が漂っています。走り出してもディーゼルエンジンの音はほとんど耳に届かず、タウンスピードや高速道路をゆったり走る限りではレンジローバーと大差ない快適性を持ち合わせています。

インテリアの風景は基本的にはレンジローバーと同じで、ラグジュアリーな雰囲気に溢れる。13.1インチのタッチスクリーンはハプティックフィードバック付き。触れたことを振動により伝えてくれる

車両重量が約2.5トンのSUVが

 いっぽうで、ワインディングロードなどステアリングを左右に何度も切るような場面では、エアサスペンションや後輪操舵といったシャシー関連のデバイスが協調制御されるので、想像をはるかに超える俊敏な操縦性を披露します。

 加えてスロットルレスポンスもいいので、アクセルペダルの微妙な動きを逃さずエンジンが反応し、登り坂でもまったくもたつくことのない加速感が味わえます。これが、全幅は2m、ホイールベースは3mを超え、車両重量が約2.5トンのSUVとはにわかに信じがたい乗り味でした。

トランク容量は通常で647L、後席を倒せば最大1860Lまで拡大できるという。可倒式の後席はラゲッジルーム側からスイッチでコントロールできる

 でも個人的にもっとも感銘を受けたのは、デザインにしろ動力性能にしろ操縦性にしろ、レンジローバーの雰囲気を壊さずきちんと残している点です。やろうと思えば、もっとアグレッシブなデザインやセッティングも可能だったはずです。レンジローバーよりも明らかにスポーティだけどレンジローバーというテイストの範疇にきちんと収めるという緻密な作業は、思い切りスポーティな方向に振るよりもずっと大変だったはずなので、だからお見事と言わざるを得ないのです。