文=渡辺慎太郎
新しいカテゴリーの立役者
いまでこそ、SUVという車形はすっかり市民権を得て街中に溢れる存在となりましたが、1980年代の頃のSUVとはオフロードをガンガン走れるような泥臭い4輪駆動モデルを指していました。ところが1998年、乗用車のプラットフォームを使い“ラグジュアリークロスオーバーSUV”という、その当時としてはまったく新しいカテゴリーの立役者として登場したのが初代レクサスRXでした。
「オフロードを走るつもりはないけれど、SUVの格好をしたクルマに乗りたい」という市場の要望に応えて開発されたRXは北米を中心に瞬く間に人気を博し、以後ほとんどすべての自動車メーカーがこのクロスオーバーSUVを用意するに至ったのでした。
そんなレクサスRXがフルモデルチェンジを受け、5代目として生まれ変わりました。先代と比べてボディサイズは全幅が25mm増えていますが、4890mmの全長はそのまま。でもホイールベースは60mm伸びているので室内は広くなっています。クロスオーバーSUVとして初めてハイブリッド仕様を仕立てたのもRXでしたが、新型も2.4Lの直列4気筒ターボハイブリッド(RX500h)と、2.5Lのプラグインハイブリッド(RX450h+)の2種類の電動化ユニット(いずれも4WD)を用意、加えて2.4Lの直列4気筒ターボ(RX350)は前輪駆動と4WDの駆動形式を揃えています。
レクサスの屋台骨のような存在
RXはレクサスのラインナップの中でもっとも多い販売台数を記録するいわば屋台骨のような存在です。つまり、幅広い顧客層のニーズや要望に応える“最大公約数的魅力”が何よりもの必須事項であり、熟考されたパッケージや豊富な装備などにその成果がうかがえます。
機能性と高い質感を両立させたダッシュボードには14インチの大型ディスプレイを置き、各種機能はタッチ式でコントロールすることにより機械式スイッチを大幅に削減。スッキリとした室内空間としています。最近流行の室内用装飾LEDも装備しており、50色ものカスタムカラーが設定可能。充電用や通信用のUSBコネクタが計6個も設置されているのはなんとも今時らしい配慮です。ひと昔前のSUVは、USBコネクタではなくカップホルダーの数を競っていたので。トランクルームのスペースも従来型よりも広くなり612Lの容量とし、95インチのゴルフバッグが計4個、搭載できるようになりました。
新型RXはその乗り味に関しても万人受けする、尖ったところのない印象です。仕様を問わず、乗り心地は悪くなく静粛性は高く動力性能は十分で素直な操縦性を備えています。トップレンジのRX500hの正式名称は“RX500h F SPORT Performance”で、リヤにモーターを搭載し4輪駆動の駆動力を状況に応じて最適化する「DIRECT4」と呼ばれる新しい制御システムを採用。直進時でもコーナリング時でも、クルマの接地荷重変化に伴い4輪にしっかりとトラクションをかけることで、安定的な挙動と動力性能を提供してくれます。
このハイブリッドシステムは6速ATを組み合わされているので、ハイブリッドにありがちないわゆるラバーバンドフィールはまったくなく、ドライバーがクルマと対話しながら走っているようなダイレクト感をもたらしてくれます。
重厚感のような乗り味
プラグインハイブリッドのRX450hは18.1kWhの駆動用バッテリーを搭載するので若干重いものの、それが重厚感のような乗り味となっているのでさほど気になりません。EV走行可能距離は86kmと公表されていますから、駐車場に充電設備があって普段は自宅の近所しか走らない方であれば、週末のロングドライブ以外はガソリンを使わずに済むでしょう。
RX500hとRX450h+はリヤをモーターで駆動する4WDですが、RX350の4WDは前後輪をプロペラシャフトでつなぐメカ四駆で、前後駆動力を75:25から50:50の間で常時最適配分する仕組みです。
今回、ほぼすべてのグレードに試乗して、個人的にはRX350の前輪駆動が価格も含めてもっともバランスがいいと感じました。というのも、新型RXの価格はたいそう立派で、RX500hの車両本体価格は900万円。税金や諸費用を含んだ乗り出し価格は約1000万円で、RX450h+でも871万円、RX350の前輪駆動が唯一の600万円台で664万円となっているからです。
これでも十分高級車ですが、クルマは1000万円付近から世界がガラリと変わり、選択肢も拡がります。参考までに、ひとつ下のセグメントではあるもののポルシェ·マカンは、下から2番目に高いマカンTでも854万円。最大公約数的魅力も重要ですが、そのクルマにしかない圧倒的魅力も、この価格帯の商品には不可欠だと思います。