文=渡辺慎太郎
53年目のリニューアル
日産自動車から新型フェアレディZが正式発表されました。フェアレディZは日産の象徴とも言うべきスポーツカーで、初代の登場から今年で53年目。これまでの累計総生産台数は役180万5000台(2021年3月時点)に達しています。特にアメリカや日本におけるフェアレディZの人気はいまだに衰えることなく、両国で毎年開催されるフェアレディZのイベントには毎回数百台もの参加車両が会場を埋め尽くすそうです。
フェアレディZといえば、ボンネットが長くルーフが後方に向けて下がっているスタイリングが大きな特徴のひとつで、歴代モデルだけでなく新型にもそのモチーフは継承されています。どの世代でも、遠くからみると同じシルエットに見えるデザインはポルシェ911などにも見られる手法で、車名そのものがもはやブランド化しているモデルはこれを積極的に採用する傾向にあります。
用意されたエンジンは1種類のみ。2997ccのV型6気筒ツインターボで、最高出力405ps、最大トルク 475Nmを発生します。組み合わされるトランスミッションは9速ATに加えて6速MTの用意もあります。スポーツカーの場合、MTの設定がないと「なんでMTがないんだ?」と非難の応酬があるいっぽうで、せっかくMTを用意をしても非難した人が全員購入するわけではなく、コストが上乗せされる割に販売台数の飛躍的向上は期待できません。自動車メーカーがMTの採用に躊躇する背景にはそういう理由があります。でも新型フェアレディZは、ひとりでも多くのファンに楽しんでもらいたいという開発チームの熱意がMTを実現させたそうです。
実際の納車までにはまだ時間がかかる
すでに販売は開始されていますが、昨今の自動車業界を取り巻く部品供給問題などにより7月末でいったん受注を停止するそうです。実際の納車までにはまだしばらく時間がかかることになりますが、北海道・陸別町にある日産のテストコースで新型フェアレディZに試乗する機会を得ました。
フェアレディZはATとMTそれぞれ4種類、計8種類のグレード構成で、MTのベーシックモデルの524万1500円からATの上級グレードの696万6300円までの価格帯となっています。エンジンはどれも同じなので、主な違いは装備やタイヤサイズです。「フェアレディZも値段が高くなって手が届かなくなった」と嘆く声が一部にはあるようです。確かに600万円前後の価格設定は立派な高額車です。しかし、世の中にある排気量3000cc以上、6気筒以上のスポーツカーの多くが1000万円以上の価格を平気で付けているのと比べると、個人的にはずいぶん頑張った価格設定になっていると思います。
スポーツカーといえば強力な加速感や俊敏なハンドリングなど、少し荒々しいシメージを持たれる方が少なくないでしょう。自分も試乗前にはそんな印象を勝手に抱いていました。ところが実際にはいい意味で大きく裏切られる結果となりました。
危険を感じることのない速さ
ひと言で表すのなら、新型フェアレディZの乗り味は「優しい」。これに尽きます。V6ツインターボが発するトルクと出力は、急激な加速をもたらすものではなく、あくまでも紳士的に、でも力強くタイヤを回転させて、最適なトラクションを提供してくれます。もちろんアクセルペダルを一気に床まで踏み込めば、身体がシートに押さえ付けられるくらいの加速Gを体感するものの、そこに危険を感じるような凄まじさはありません。
ハンドリングは、あくまでもドライバーの意志に忠実なセッティングです。思ったより速く曲がるとか、ステアリングをちょっと動かしただけでナーバスに車体が動くこともなく、意図した通りに動くけれど意図しない動きはしないという、操縦性の基本がしっかりと確立されているのです。こういう当たり前のことが実はとても難しく、開発チームの努力の賜と言えるでしょう。
フェアレディZは速く走らなくても、素性の良さが伝わってくるスポーツカーです。もみてをしてやる気満々で「さあ走るぞ」というよりも、「時間ができたからちょっと流してこよう」みたいな余裕が感じられる大人のドライブが合っているかもしれません。
自分を含む「いま」の大人が若かりし頃、スポーツカーの紙のカタログを見ながらいろんな思いを馳せたものでした。最近ではカタログもデジタル化が進んでいますが、新型フェアレディZのカタログは立派な装丁になっていて、使用される写真のほとんどが合成ではなくオリジナルのままだそうです。いつかスポーツカーに乗りたいという子供の頃の夢が現実になる、そんな世界観を新型フェアレディZはカタログから実車まで貫いているのです。