大谷 達也:自動車ライター

競争するマセラティの血統

 世界で914台が限定販売されるマセラティGT2ストラダーレは、同社のミッドシップスーパースポーツカー“MC20”のハイパフォーマンスバージョンだ。

 もともとレースを戦うために生まれてきた自動車メーカーといっても過言ではないマセラティだが、2005〜6年のFIA GT選手権でMC12がタイトルを勝ち取って以降はモータースポーツ活動から遠ざかっていた。ところが、2020年に行ったMC20のワールドプレミアと同時にモータースポーツへの復帰を宣言すると、2023年にはフォーミュラEとGT2ヨーロッパ・シリーズへの参戦を相次いで開始し、翌2024年にはGT2ヨーロッパ・シリーズAmクラスでタイトルを獲得するという快挙を成し遂げた。

GT2ヨーロッパ・シリーズAmクラスを走るレーシングカーの方の「GT2」

 ここで紹介するGT2ストラダーレは、このGT2ヨーロッパ・シリーズでの成功を記念して誕生したモデルといえる。ちなみに同シリーズに参戦したレーシングカーの名称はマセラティGT2。こちらは純然たるサーキット専用モデルだが、GT2ストラダーレは公道走行が可能なロードゴーイングバージョン(公道走行モデル)であることから、イタリア語で公道を意味する“ストラダーレ”がモデル名に付け加えられた。

パフォーマンス向上のカギは空力

 冒頭で「GT2ストラダーレはMC20のハイパフォーマンスバージョン」と申し上げたが、近年のスーパースポーツカー・ビジネスにおいては、「サーキット走行をより強く意識したモデル」をハイパフォーマンスバージョンとして販売するケースが増えている。サーキット走行を前提にすれば特別な装備が必要になり、付加価値を高められることが理由のひとつだが、それとともに、実際にサーキット走行を楽しむスーパースポーツカー・オーナーが増加傾向にあることも、その背景に潜んでいるように思う。昨今のスーパースポーツカーの高性能振りと、公道での交通環境のありようを考えれば、オーナーがサーキット走行に親しむようになったのは当然のことといっていいだろう。

 GT2ストラダーレで特徴的なのは、高性能化の多くをエアロダイナミクス、つまり空気力学的な性能の進化に頼っている点にある。

 たとえばフロントマスクの空気取り入れ面積を大幅に拡大するとともに、ここで採り入れたエアフローの一部をボンネット上から排出してダウンフォースを発生する“Sダクト”を用いたり、巨大なリアウィングを上面から吊り下げるようにして支持するスワンネック方式を採用するなどして、280km/h走行時に実に500kgものダウンフォースを生み出すことに成功している。これはベースモデルであるMC20が生み出すダウンフォース(145kg)の3倍以上に相当する値だ。

 ちなみにGT2ストラダーレの車重はベースモデルより60kg軽い1365kgだが、280km/h走行時にはここに500kgが加わり、合計1865kgの垂直荷重がタイヤにのしかかることとなる。一般的にいって、一定領域までであればタイヤへの垂直荷重が増えれば増えるほどタイヤのグリップ力は高まるので、それだけGT2ストラダーレはタイヤが路面を捉える能力が高く、コーナリングスピードが上がってサーキットでのラップタイムも短縮されると考えられる。つまり、ダウンフォースの増強は実に理に適った「ハイパフォーマンス化」なのだ。

 そのほかにもサスペンションを強化したり、電子デバイスを専用チューンとするなどして、ジェントルマンドライバーと呼ばれるアマチュアにも安心してサーキット走行を楽しめるように仕上げたモデルがGT2ストラダーレといって間違いないだろう。