スポーツウォッチの歴史でもあるタグ・ホイヤー

 タグ・ホイヤーは、19世紀からクロノグラフをベースに発展してきたブランドである。150年を超えるその長い歴史は、スポーツウォッチの歴史ともいえる。なかでもモータースポーツとの関わりが深く、極限のスピードに対する計時を重ねることによって精度は高められていった。現在スポーツシーンで当たり前のように見られる1/10秒、1/100秒、1/1,000秒といった計時を世界で初めて成功させたのもタグ・ホイヤーである。

 そんなタグ・ホイヤーにあって、レースに関わる人気モデルのひとつが『モナコ』である。1969年に発表された『モナコ』はスクエア型のモデルだった。当時スポーツウォッチというカテゴリーでは、スクエア型のヴィンテージウォッチはほとんど見当たらなかった。当時はスクエア型で高い防水性(防塵性)が得られなかったからだ。

 そんななか時計業界の常識を超えた、世界初のスクエア型の防水時計が『モナコ』だった。56年経った今日でも、このモデルを超えるスクエア型スポーツウォッチは生まれていない、と断言できる傑作だ。

 このモデル名は地中海に臨む世界で2番目に小さい国、モナコ公国からとられている。ただ、それはモナコという国自体というよりも、モータースポーツとタグ・ホイヤーとの関連性から、世界三大レースのひとつ「F1モナコグランプリ」を意識してのもののようだ。

劇中でスティーブ・マックイーンが着用

 そして、この『モナコ』を一躍有名にしたのが、スティーブ・マックイーンの主演の『栄光のル・マン』(71年)である。ル・マン24時間レースを題材にしたカーアクション映画の劇中でマックイーンが身につけていた腕時計こそ『モナコ』で、この着用がきっかけでこのモデルは世界的に大ヒットしたのである。スクエアケース、ブルーダイヤルに挿し色のレッド。。。とても新しくてスタイリッシュ。人気が出ないわけないのである。

 もちろん機能も充実していた。汗がつきもののスポーツには防水性が不可欠なのだが、そこも抜かりはない。ラウンド型のものは、ねじ込み式の裏蓋でケース裏を閉じることが多く、ケースと裏蓋の隙間にパッキンを噛ませ、内部に水分が入らないようにしている。  

 しかしスクエア型の『モナコ』では、ねじ込み式裏蓋は難しいので、かぶせ蓋式のケースを採用して、その隙間にパッキンをかませるという方法で高い防水性を実現したのである。どこもやったことのない方法で、防水性というスポーツウォッチに欠かせない機能を実現させるというのも『モナコ』の革新性のひとつであった。この構造は現行モデルにも採用されており、現在では100m防水というダイバーズウォッチ並みの機能を実現している。

世界初の自動巻きクロノグラフムーブメント

 さらに革新性ということでは、『モナコ』の初代モデルには世界初の自動巻きクロノグラフムーブメント「キャリバー11」が搭載されていた。これはホイヤー(現タグホイヤー)、ブライトリング、ハミルトン、デュボア・デプラ社の4社で共同開発した「クロノマティック」と呼ばれるものであった。

 当時、ホイヤーとブライトリングというクロノ界の二大巨頭が手を組んで自動巻きクロノグラフムーブメントの共同開発がスタート。当時ハミルトン傘下のビューレン製マイクロローター式の薄型自動巻き機構に、ディボア・デプラのクロノモジュールを載せることで、世界初のムーブメントを完成させたのだ。構造上、左リュウズになったが、自動巻きなので大きな問題ではなく、これもまた腕時計の大きな特徴となり、より画期的なモデルに仕上がったのだ。

 70年代に人気を博した『モナコ』も、時代とともにタグホイヤーが他のコレクションにシフトしていったこともあって、次第に生産されなくなっていったのだが、1997年に5000本の復刻限定という形で復活する。さらに99年位は3カウンターモデルが、2002年以降は2カウンター仕様でレギュラー化され、2009年にはムーブメントを一新し、左リューズ使用も限定で復活している。

モナコ スプリットセコンド クロノグラフ 自動巻き、チタンケース、41㎜径 価格は要問合

 現在も左リューズのモデルは存在しており、オリジナル同様「キャリバー11」が搭載されている。また、右リューズのモデルには基本「キャリバー ホイヤー02」を搭載、80時間のロングパワーリザーブと100m防水のスペックが与えられている。