東の勇 マツダ ロードスターに見るスポーツカーと幌の関係

 昨年のアバルト500eカブリオレの記事にも書きましたが、オープンカーの開放感は格別です。屋根を開けただけで、自我が開放されていくのを感じます。自然の中でも、街の雑踏の中でも幌を下ろしたくなります。景色や風、街の様子や行き交う人々の声までもが、まるで舞台装置のように活き活きと眼に映ってくるのです。

 田舎にでも住んでいたら開けっ放しでも構わないのかもしれませんが、東京に住んでいると開けたい時と閉めたい時が頻繁に入れ替わってくるので、718ボクスターの優秀な開閉システムは本当に助かります。1月の寒い中でも、シートヒーターを効かせて開けて走っているくらいです。

 その一方で幌の開閉操作について、これ以上ないくらいのミニマルを続けているのが、マツダ・ロードスターです。久々に、マイナーチェンジを受けたロードスターに乗ってみました。

マツダ ロードスター

 今回のマイナーチェンジで施されたものはさまざまで、新旧比較試乗もしました。進化は認められましたが、旧型オーナーが慌てて買い替えたくなるほどの絶大な効能は感じませんでした。

 どの仕様もロードスター独特の世界を体現していて素晴らしかった。コーナーを軽快に駆け抜けていき、クルマを運転することが肉体と精神の悦びに直結している。その点は718ボクスターも変わりありませんが、ロードスターは小ぶりで軽い分だけ自分の身体の延長線上にある感覚が強い。それこそが、ロードスターの身上でしょう。旧型だって、まだまだ十分に魅力的です。

 そして、改めて夢中にさせられてしまったのが幌を開けての運転でした。ロードスターの幌の開閉はウインドスクリーンのラッチを外して幌のロックを解除し、そのまま左手で後ろに押すだけで幌は畳まれていきます。力の掛かる方向などが良く吟味されているので、動きは滑らかです。最後に軽く押し込んでカチッとロックさせれば完了。慣れれば10秒も必要とせずに短い時間で開けることができます。

 閉める時も反対の操作をするだけで短時間で済みます。718ボクスターはラッチの開閉作業も不要で、電動開閉レバーを引くだけの操作なので簡便さは優っていますが、ロードスターの手動式の方が素早い。これなら、街中でも頻繁に開けたり閉めたりできます。運転中なら助手席の人に行ってもらえばいい。

 幌の開閉が手動式ということは、マニュアルトランスミッションの操作と同じくらい大きな意味を持っています。身体性ということです。実用車の運転が移動のための手段であることに対して、運転という行為が目的化しているスポーツカーにとって、あらゆる操作が手動で行えることは、それだけ悦びも増えるというわけです。ロードスターの優れた手動式の幌は、走る・曲がる・止まるといった運転操作と等しい価値を持っていることを再確認することができました。