朗報かな!

魂を揺さぶるビートがV8にあるならば、エレガンスの極みは直6にあり。ボルドー派かブルゴーニュ派かを争うような永遠のライバル関係は、しかし、直6はおろか、直6ダブル搭載、自動車界のロマネ・コンティ、V12エンジンまでもが市場から姿を消しはじめ、直6陣営の戦線離脱により今は昔の物語となるかに見えた。いやそれどころか、エンジンが電気モーターに取って代わられる、などという話までまことしやかにささやかれはじめているではないか。

ところが、ここに来て、世界の自動車メーカーに直6が再注目されている。ここ、日本でもマツダが、直6復活に本気の姿勢を見せている。

自動車好きのすくなくとも半数よ! 諦念はまだ早い! 我々はまだ、直6に乗れる。

2022年初秋登場が予告されているMAZDA『CX-60』
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マツダ 直6を造る。なぜ?

直列6気筒ディーゼル・エンジンを搭載したマツダ『CX-60』のプロトタイプに試乗しました。

マツダが直列6気筒エンジンを開発したと聞いて驚いた方も少なくないでしょう。排気量が小さく、気筒数が少ないダウンサイジング・エンジンがトレンドとなっているいま、6気筒モデルは高嶺の花。くわえて、6気筒エンジンといえば長らくV型6気筒が主流だったにもかかわらず、敢えて直列6気筒を選択したことも不思議と言えば不思議です。しかもCX-60には、スポーツカーや高級車などで一般的な後輪駆動のレイアウトが採用されています。これも疑問点のひとつといって差し支えないでしょう。

なぜ、マツダはこの時期に、直列6気筒エンジンを積んだ後輪駆動モデルを発売するのでしょうか?

もしかして直6造ってる?

「マツダが直列6気筒エンジンを開発している」

そんな噂が立ち始めたのは、2017年の東京モーターショーで発表された『ビジョン・クーペ』がきっかけだったように思います。これに先立つ2015年の東京モーターショーで、マツダは『RX-ビジョン』を発表します。ただし、このコンセプトカーはロータリー・エンジンを搭載することが明言されていましたし、そもそもモデル名の「RX」の2文字を見ればロータリー・エンジンの搭載を前提としていることは明らか。ところがビジョン・クーペについては、どんなエンジンを搭載するかに関する説明がありませんでした。

しかし、ロングノーズ・ショートデッキという典型的なFR(フロント・エンジン、後輪駆動)のプロポーションを持つビジョン・クーペに似合うエンジンは、ロータリーであれば3ローター以上(ローター数はレシプロエンジンの気筒数に相当するもので、過去のロータリーエンジン搭載車はほとんどが2ローターでした)、レシプロであれば直列6気筒ないしV8以上のマルチシリンダーしかありません。いっぽうで、ビジョン・クーペではロータリー・エンジン搭載の可能性が敢えて明言されなかったのですから、直列6気筒やV8が搭載されるという観測が急に現実味を帯びたのは当然のことでした。

直6はなぜ絶滅寸前になったのか?

直列6気筒は、BMWなどの一部例外を除くと、一時期はほぼ絶滅したといってもいいエンジン形式でした。その主な理由は、衝突時の安全を確保しにくい点にありました。

現代の乗用車には、衝突時に乗員や歩行者にどのような被害が及ぶかを検証するクラッシュテストが義務づけられています。そして、この厳しいクラッシュテストをクリアするため、エンジンルームに広い空間を確保して、ここでボディが「潰れていく」時間稼ぎをして衝突時のエネルギーを吸収し、乗員や歩行者を重大な負傷から守るという手法が採られています。

ところが直列6気筒は一般的に直列4気筒やV型6気筒に比べて全長が長く、このためエンジンルーム内に十分なスペースを確保するのが困難で、20年ほど前からメルセデスベンツや日本メーカーは次第に直列6気筒を諦めるようになっていったのです。

いっぽう、「ストレート6」をブランドの重要な核としていたBMWはこの時期も直列6気筒エンジンを作り続けましたが、長いエンジンを積んだうえで十分なクラッシャブルゾーンを用意したため、相対的にエンジンルームが長いプロポーションとなり、小さなクラスでは十分な室内スペースを確保しにくいという困難に直面していました。

直6復活の狼煙

こうしたトレンドを大きく変える一大事件が起きたのは、2018年のこと。メルセデスベンツが『Sクラス』に直列6気筒エンジン搭載モデルを設定したことにありました。当時、メルセデスは、直列6気筒エンジンは幅広のV型6気筒に比べるとエンジンの両脇に補機類(発電機、ウォーターポンプ、エアコン・コンプレッサーなど)をレイアウトするのが容易で、このためエンジン全体をよりコンパクトにできることが復活の理由だと説明していました。

いっぽうで、一般的にいってV型6気筒よりも直列6気筒のほうが必要となる部品点数が少なく、したがってコスト面で有利になることも、直列6気筒が再登場するきっかけになったと推測されます。

もともとの問題だったクラッシュテストに関しては、技術の進歩によってエンジンの小型化が実現できたほか、こちらも技術の進歩により、衝突時のエネルギーを効率的に吸収できる手法が確立されたため、以前ほど困難な課題ではなくなったようです。

そしてジャガー・ランドローバーも2020年に直列6気筒エンジン搭載モデルを発表します。

メルセデスもジャガー・ランドローバーも、直列6気筒だからといってエンジンの振動を完全に消し去ってしまうのではなく、直列6気筒にしか生み出せない「滑らかな鼓動感」を感じさせるのが特徴。ひとつひとつのシリンダーのなかで順に燃焼が行なわれているというよりも、6気筒エンジン全体がまるでオーケストラのように、ひとつの流れるようなメロディーを奏でてくれるのです。このためステアリングを握っていると、なんともいえない高級感を味わえて、思わずうっとりしてしまいます。

マツダの直6はちょっと違った

これに比べると、マツダの6気筒ディーゼル・エンジンは各シリンダーが順に燃焼している様子がよりはっきりと感じられます。したがって、その鼓動感は「滑らか」というよりも「粒立ちのよさ」に近いものでした。

これに気づいたとき、私は「これだったらわざわざ直列6気筒にしなくてもよかったのではないか?」と思ってしまいました。ただし、マツダの技術者たちの話を聞いて、「6気筒にする必要性」があったことが納得できました。

マツダはここのところブランド・バリューの向上にとりわけ重きを置いてきました。これは彼らが2010年にSKYACTIVという新しい技術群を発表した当初から感じられてきたことですが、日本車メーカーには珍しく、クラスやボディタイプにかかわらず共通のデザイン、共通の乗り味とすることで、マツダのブランドイメージを確立し、その価値を高めようとしてきたのです。これはヨーロッパ車、とりわけドイツ車が得意としてきた手法です。

今後、自動車はより高い安全性能や環境性能が求められ、価格はさらに上昇するとみられています。また、低価格帯の国際的自動車市場は今後、中国車メーカーなどに席巻されてもおかしくありません。そうしたなか、マツダは自分たちの存在感をより強固なものとし、しっかりと利益を上げられる体質に変わろうとしているのです。

そこでマツダとしては、これまでよりも上級な車種をラインナップする必要性が生じ、6気筒エンジン+後輪駆動シャシーを開発することになったと考えられます。

ちなみに、今回マツダが開発した6気筒ターボディーゼル・エンジンの排気量は3.3リッター。このクラスになると、4気筒よりも6気筒のほうが燃費をよくできるそうです。しかも、新エンジンには空間制御予混合燃焼という新しい燃焼方式を採用。CX-60の燃費は、車重がこれよりも500kg以上軽く、排気量も1.8リッターと小さいディーゼルエンジンを積むCX-3と同等を実現できる見通しといいます。

V型6気筒ではなく直列6気筒を採用したのは、エンジンのスムーズさもさることながら、メルセデスやジャガー・ランドローバーと同じようにコストを削減したいという思いがあったのかもしれません。また、直列6気筒モデルでは、エンジンを横置きにすることが難しく、エンジンを縦置きにして後輪駆動にするのが一般的な手法ですが、これは高級車に広く使われているレイアウトのため、マツダのブランドイメージ向上に役立つという戦略がその背景にあったと推測されます。

マツダは、この新しいシャシーに直列4気筒2.5リッター・ガソリンエンジン+プラグインハイブリッドなども搭載。またシャシー開発に際しては、これまでにない発想の設計を採り入れることで、マツダが取り組んできた「走りへのこだわり」が新たなレベルに引き上げられたように感じました。

自分たちの個性を大切にし、自動車の未来を考えながら新型車の開発に取り組むマツダの今後に期待したいと思います。