今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。

写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登

サッカー用スパイクとして開発

 開口一番、お伝えする此度のテーマは「サンバ」……といっても、ダンサー御用達シューズを取り上げるわけではない。欧州の古豪ブランド・アディダスが、1950年のサッカーワールドカップ・ブラジル大会に合わせてサッカー用スパイクとして開発。その後、ファッションとしても広がった名作のハナシ。

 そのユニークな名称が連想させる南米の伝統的ダンス音楽を由来とする説もあるが、公式見解では誤報との解答。その昔、サッカーの試合時に薄氷の張ったピッチでこのシューズを履いた選手が、卓越したパフォーマンスを披露したことに由来するというのが真相だとか。これは同モデルが有する優れたグリップ力と安定性の証明でもあるわけだが、近年では甲部分が低く設計されたロープロファイルなシルエットを推しどころに挙げる声が大多数。

 歴史的には、1970年代に英国で誕生したサッカー発祥の文化、テラスカルチャーを足がかりに、1990年代にアメリカのスケーター、サッカーとブリットポップを愛するイギリスの若者たちの間で流行。そしてまた歴史は繰り返す。2022年頃より再び脚光を浴び、日本でも老若男女問わずトレンドに。

 そんな「サンバ」を今回は、オリジン、素材違い、ハイエンド、別注という異なる4つの切り口でフィーチャー。流行りというだけで意味なく忌避する人もいるだろうが、かように熱く支持されるのには理由がある。ならばその誘いに乗ってみるのも一興ではないか。「踊る阿呆、見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」とはよく言ったものである。

 

1. adidas Originals「SAMBA OG」

スニーカー¥15,400/アディダス オリジナルス(アディダスお客様窓口)

極めてシンプルかつ、ベーシックに仕上げられたオリジンモデル

 先述のように元々は、ピッチでの着用を想定して作られた「サンバ」。ゆえにサッカーにおける動作に最適化されたディテールを今も色濃く残している。

 その最たる例が、トゥ部分にあしらわれたT字型のオーバーレイだろう。この意匠は単なるデザイン的装飾にあらず。シュートの際などにダメージを負いやすいトゥ部分の補強を目的とし、同時に美しく流れるような薄型シルエットのキープも担っている。しなやかで屈曲性に優れたレザー素材のアッパーは、スウェード素材のオーバーレイで補強。これまた薄く設計されたガムソールが足裏での繊細なボールコントロールを可能とする。

 キャッチーさを至上とした近年のスニーカートレンドの裏をつく、極めてシンプルにしてベーシックな佇まい。その汎用性は高く、合わせるスタイル不問のユーティリティプレイヤーである。