長年にわたって作られてきた定番品は、“当たり前”の良さを持っている。誰もが日常的に使えて、しかも品格あるスタイル作りの役に立つ。そして流行にとらわれず、末長く愛用できるところも魅力的。なかでも独自の哲学を込めつつ、素材や製法にもこだわりを尽くした真のマスターピースを紹介する。

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川剛 編集/名知正登

カジュアルな軽装をエレガントに引き上げる“奥の手”

 大人っぽい着こなしを作るには、革靴を軸にコーディネイトを組み立てることがひとつの基本。スニーカーありきで考えてしまうと、やはり学生風なカジュアルスタイルになりがち。しかし昨今、メンズスタイルはスポーティカジュアルなトレンドの真っただ中だ。ソフトで快適なスニーカーに馴れてしまっていたら、今さら硬くてヘビーな本格革靴に戻るのは、やや無理があるかもしれない。

 そこで提案したいドライビングシューズという手段。基本的にはローファーなどドレスタイプの革靴ルックを踏襲しつつ、ソールを柔軟かつ薄手のゴムソールなどにアレンジした靴のことである。また、脱ぎ履きしやすいヒモなしのスリッポンタイプが、昨今のドライビングシューズのお約束となっている。

 その名のとおり、この一足は運転時のペダルワークが繊細に行なえる“しなやかな軽さ”にこそポイントがある。たとえばシックなジャケット&スラックスの装いも、ドライビングシューズを合わせることで、堅苦しくなくアクティブに、しかしスニーカーの合わせでは叶わない大人っぽいスタイルが軽妙に作り出せるのだ。

 選びのポイントは、耐久性をもちつつソフトな革使いであることがひとつ。そして素足で履いても心地良さが続く丁寧な仕立ても重要だ。それらを両立させるには、長く靴を作り続けてきた経験と知識がマストとなる。そこで靴作りに確かな歴史をもつ、実力派の名作ドライビングシューズを中心に紹介する。

 

1. TOD’S

シューズ¥135,300/トッズ(トッズ・ジャパン)

エレガンスと個性を備えたドライビングシューズの名品

 イタリアのトッズこそは、ドライビングシューズ作りの世界的名手。欧州風のエレガンスとアメリカ的なカジュアル感を併せもつレザースリッポンを1970年代後期に作り出し、広く知られるブランドへと成長した。特に小石状の突起をもたせたゴムソールは唯一無二のデザインであり、歩きやすさと優れたグリップ性から「ゴンミーニ(ゴム底の靴)」の愛称が生まれ、正式なモデル名となっている。

 2022年にはさらなる進化型として写真の「ゴンミーニ バブル」が登場。ペブル形状を円錐台形にアレンジすることで、スニーカーに近いクッション性をもち、同時に耐久性の向上までも実現。ネクストステージの「ゴンミーニ」をぜひ秋冬期の足元に。