長年にわたって作られてきた定番品は、“当たり前”の良さを持っている。誰もが日常的に使えて、しかも品格あるスタイル作りの役に立つ。そして流行にとらわれず、末長く愛用できるところも魅力的。なかでも独自の哲学を込めつつ、素材や製法にもこだわりを尽くした真のマスターピースを紹介する

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川剛 編集/名知正登

男性服全般にマッチし適度な洒落感も併せもつ

 メガネも身に着けるアイテムである以上、服装の一部ととらえられる。ならばコーディネートの観点から、服装にマッチしたメガネを選ぶのが理想である。しかし世間的には、何かアクセサリーのように(もちろんアクセサリーも装いを考慮すべきだが)メガネのフォルムやスペックだけにフォーカスして選ぶ人がまだまだ多い。ただ、それではスタイルがチグハグになってしまうリスクがある。

 もちろん誰もが常に同じ服装をするわけではない。時にはドレッシーに、時にはカジュアルにも装うだろう。しかし成熟した男性は、シーンやトレンドが変わろうともトラッドスタイルがひとつの基本である。ジャケットや襟付きシャツにスラックス、それに革靴などなど、時代によって多少のアレンジはあるものの、こういったアイテムをメインに着こなすことがほとんどだ。

 であれば、メガネもそれにならってトラッドフレームから選ぶのが、トータルに考えて合理的なのだ。当然トラッドフレームにも種類はあるが、オンオフ兼用などある程度の汎用性を前提とするなら、ウェリントンと呼ばれるスクエア型に丸みを持たせたモデルがおすすめ。適度に誠実な印象があり、それと同時にファッショナブルな装いにも馴染むから。

 なかでも黒縁と呼ばれるブラック樹脂のフレームは、メガネの定番でありつつ顔自体を知的に引き締める効果を持つ。メタルフレームも似たような特性を持つが、黒縁の方がファッションとの親和性が高く、落ち着きつつも冷たく見えすぎることもない。自身の顔に馴染む黒縁メガネを一本用意しておけば、男らしい重厚感とセンスの確かさを、色々な服装にてアピールすることができるのである。

 

1. TOM FORD

メガネ¥53,900/トム フォード(クライン アイウェア)

日本人顔をも考慮した世界的ヒットモデル

 グッチを若返らせたクリエイティブデザイナーとして世界に知られるトム・フォード。モードの鬼才はかねてからメガネにも強い興味を抱き、自身のウエアブランドのローンチと同年に本格的なメガネコレクションもスタートさせている。なかでもアイコニックであるのが、艶やかなブラックフレームかつヨロイ部分にブランドの頭文字である「T」の金具をあしらったデザイン。重厚感あるトラッド型にして、ひと目でソレとわかるルックスから、リリースと同時に著名人など高感度なファッショニスタから強い支持を得ている。

 写真のモデルは、レンズの天地を狭め鼻梁を確実にキャッチする高めの鼻盛りなど、日本人の顔型に合わせた新定番。フレーム樹脂には植物繊維を原料とした肌に優しいセルロースアセテートを採用。トム フォードが手掛けるウエアに負けぬ高級感に加え、サスティナブルであるのもポイントだ。