長年にわたって作られてきた定番品は、“当たり前”の良さを持っている。誰もが日常的に使えて、しかも品格あるスタイル作りの役に立つ。そして流行にとらわれず、末長く愛用できるところも魅力的。なかでも独自の哲学を込めつつ、素材や製法にもこだわりを尽くした真のマスターピースを紹介する
写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川剛 編集/名知正登
オン・オフを手軽に穿き回せる万能パンツ
ジーンズと双璧とも言えるデイリーパンツの定番であるチノパンツ。アメリカン・カジュアルを愛好する人たちからは「チノパン」などと呼ばれ親しまれる、コットンを主要素材とするパンツだ。
そもそも「チノ」とはChino(中国)に由来しており、原点は19世紀の英国軍にあるという。ヴィクトリア時代に英国からインドに渡ったタフなコットン製の軍用綾織り生地は、やがて中国にもたらされ、世界大戦を経てアジアに駐留する米国兵士が、当時配給されたパンツを中国製生地のものと混同し「チノパンツ」なる名称が広まったとされている。
ともあれ、カーキと総称されるサンドベージュ系のカラーを特徴とし、デザイン的にはスラックスタイプに仕立てられているものがチノパンツのスタンダード。ポイントのひとつは適度に土臭くもメンズアイテム全般にマッチする、ベージュ系というカラーリングにある。また、伝統的なスラックスデザインゆえに、タイドアップなどのカチッとした装いに違和感なくマッチするところも見逃せない。つまり、使い勝手に優れたオン・オフ兼用の極めて便利なアイテムなのである。
オーバーサイズなどの昨今のトレンドを意識するなら、やや太めフィットを選ぶのが良いだろう。今風なルックスが楽しめるだけでなく、非常にリラックスした穿き心地が味わえる。そして大人っぽくドレッシーに装いたい場合は、ジャストもしくはやや細身を選ぶのが正解だ。カラーも淡色のカーキをセレクトすれば、上品な清潔感を手軽にアピールできるのだ。
1. SCYE BASICS
ヴィンテージにこだわり生地から独自開発
英国クラシックをベースとしつつ、モダンな視点を取り込んだウエア作りを実践するサイ。なかでもサイベーシックスは、ルックスのみならず素材使いや内部構造まで、独自の哲学を注ぎ込んだ「新定番」と呼ベルラインだ。
そのこだわりを十分に味わえる一本がこの定番モデルのチノ。ヴィンテージチノ・クロスの味わいを求め、カリフォルニアのサン・ホーキンバレーで栽培された、繊細な高級綿をタテ糸に使用。シルエットはフロントに取った2プリーツも相まって、貫録ある古式ゆかしい太めフィットを描き出している。ただし裾は適度に絞られており、脚さばきは軽快に行なえる。トラッドな男らしさと実用性を巧みに融合した一本だ。