今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。

写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登

「メロスは激怒した」

 ご存じ、太宰治の名著『走れメロス』の冒頭の一文だ。邪智暴虐なる王を正すべく暗殺を図るも失敗した主人公メロス。彼は、唯一の肉親である妹の結婚式に参加するため、無二の親友を処刑される己の身代わりに、命懸けの往復マラソンへと走り出すのである。学校の授業では“友情を守るために走る尊さ”を習ったが、大人になった今、何とも自己中心的に感じられるのは一方で正しい。

 なぜならば、運動不足解消のため・記録更新の名誉のため…etc.。かように走るという行為は、常に自分自身のために行なわれるがゆえ。そこで一糸纏わぬ姿で走り終えたメロスに、ひとりの少女がマントを捧げたがごとく、新たな一歩を踏み出す勇者たちに、履くだけでパフォーマンスを向上させる本気のランニングスニーカーを贈ろうというのが、本稿のテーマ。

 ちなみに、ファッションショーでモデルたちが闊歩するあの舞台の名前はランウェイ。走らないのになぜ“ラン”ウェイなのかといえば、RUNという言葉に“実行する”という意味合いもあるからだとか。……なんてすぐ脇道に逸れる蛇行の駄文にお付き合いいただくのもここまで。夏にはパリ五輪の開催も控え、にわかに盛り上がるランニング熱に浮かされるもまた良し。とにかくランというものは、すぐに実行するのがよろしい。

 

1. New Balance「FuelCell Rebel v4」

シューズ¥16,500/ニューバランス(ニューバランスジャパンお客様相談室)

ストレスフリーな履き心地と、スピード向上を約束する名機

 どちらかといえば、ファッションの印象が色濃いニューバランスだが、初のランニングシューズをオーダーメイド製作したのは1938年と老舗の貫禄。以来、約90年間に渡ってランニングの世界で研鑽を重ねてきただけあって、本稿を牽引する先頭走者にこれほどふさわしいブランドはない。

 スピードを追い求めるシリアスランナーに人気の「FuelCell Rebel」もまたアップデートを重ね、今ではV4へと進化を遂げた。

 最大の特徴はモデル名にも冠されたFuelCellだ。軽量性、靭性、柔軟性を備えた素材、ペバックスを配合し、ミッドソールの反発弾性を向上。また前足部のフィット感を改善し、より転がる感覚や足抜けを意識した形状に。ストレスフリーな履き心地を実現し、さらなるスピード向上を約束する。