文=酒井政人 

2024年1月1日、ニューイヤー駅伝の表彰式前の太田兄弟。右は兄の智樹、左は弟の直希 写真=日刊スポーツ/アフロ

正月の駅伝を席巻したシューズ

 今年の箱根駅伝でシューズシェア率を前年の15.2%から24.8%に大きく伸ばしたアシックス。そのほぼ全員が着用していたのが、ストライド型とピッチ型の走法の違いに着目して開発された『METASPEED』シリーズだ。いずれも「少ない歩数で走る」ことがコンセプトになっている。

 アシックス初のカーボンプレート搭載レーシングシューズは箱根ランナーたちのハートをキャッチ。2021年大会の〝着用率ゼロ〟からV字復活を果たした。

 近年注目を浴びているシューズがさらに進化。最新モデルとなるのが『METASPEED PARIS』シリーズだ。名称からして、今夏に開催されているパリ五輪を意識しているのは理解できるだろう。そして同モデルのプロトタイプを着用した太田直希(ヤクルト)と太田智樹(トヨタ自動車)が元日のニューイヤー駅伝の1区と2区で区間賞を獲得するなどすでに結果を残している。

「ASICS METASPEED PARIS SERIES 発表会」リモートで参加する太田智樹選手と太田直樹選手

 では、どこがアップデートされたのか。

 最新モデルは太田智樹を含む世界中にいる100人以上のエリートランナーからヒアリングを実施して、各部位の形状や機能性を向上させたという。

 その結果、ストライド型の『SKY』は前作に比べて、カーボンプレートの幅を拡大。広範囲でフォーム材を踏み込むことが可能になり、フォーム材の反発領域が約12%もアップした。

METASPEED SKY PARIS

 一方、ピッチ型の『EDGE』は前作と比べて前足部のフォーム材の厚みを3mm増加。フォーム材の反発領域が約20%も拡大した。また前モデルよりSKYは約20g、EDGEは約25gの軽量化を実現している。

METASPEED EDGE PARIS

 実際にSKYとEDGEを履き比べてみると、両者の感覚はかなり異なる。面白いのが前モデルで太田兄弟はともにSKYを履いていたが、METASPEED PARISは兄・智樹がEDGEを、弟・直希がSKYを選んだことだろう。ふたりは新モデルの威力をこう感じている。

「新作はEDGEの方が前作のSKYに感覚が近く、スピードも出しやすかったんです。以前のEDGEは爪先部分に少しダメージが残るような感覚があったんですけど、それがなくなって、蹴り出しの最後まで反発感を得やすくなったと思います」(太田智)

「SKYは前モデルより反発を感じて、カラダが跳ねるような感覚がありますね。一方で接地時の安定性は増したように感じます。また前作より軽くなった分、脚運びのスピードが上がり、勝負どころでスピードアップがしやすいかなと思います」(太田直)

 

ハーフマラソン最速兄弟の強さの秘密

左から伊福陽太選手、菅野雄太選手、工藤慎作選手

 太田智樹(トヨタ自動車)と太田直希(ヤクルト)はハーフマラソンの合計タイムが〝日本人最速兄弟〟となる。都内で行われた「新レーシングシューズ発表会&体験会」には正月の箱根駅伝で『METASPEED PARIS』シリーズのプロトタイプを着用した早大トリオも登壇。日本トップクラスの実力を持つワセダの先輩に〝強さの秘密〟を聞いた。

 箱根駅伝8区を区間5位と好走して、2月11日の延岡西日本マラソンを大会新の2時間09分26秒で制した伊福陽太は、「結果が出ないときのマインドについてお伺いしたいと思います」とメンタル面でのヒントを尋ねた。

「結果が出てないときは、良かったときの自分と比べちゃうと思うんですけど、そうするとどんどん沼にはまっていく気がしています。良くないときこそ、自分をしっかり見つめ直す機会だと思って、いまの自分にできる練習を精一杯やることが大事かなと思います」(太田智)

「自分も走れてない時期が大学2年時にあったんですけど、いつかは走れるようになると信じて、我慢しながら練習しました」(太田直)

 箱根駅伝で総合7位のゴールに飛び込んだ菅野雄太からは、「レースが立て続けにある場合は、次のレースに向けてどのような取り組みをしているんでしょうか?」という質問が飛んだ。

「シーズンを通して出る試合はある程度決まっていると思うので、試合間隔が短いときは、その前に走り込みをする期間を作って、逆に試合が続く期間は、練習量を落として、試合に集中するように気をつけています」(太田智)

「すべての練習を頑張るんじゃなくて、うまく疲労をコントロールするようにしていますね。またピーキングが合わなくても、これぐらいだったら走れるという楽観的な気持ちで試合に出るようにしています」(太田直)

 1年生ながら学生三大駅伝すべてに出場して、山の5区を区間6位で駆け上がった工藤慎作は、「早大の選手は卒業後、さらに伸びる選手が多いように感じています。その要因はどのように分析されていますか?」という疑問をぶつけた。

「大学時代はそこまで追い込むような練習をしていなかったですし、自分で考えることも多かったので、そういうところが社会人になって生きているのかなと思います」(太田智)

「大学時代はジョグもフリーが多く、自分の弱点を克服するための練習を自分で考えていました。そういう考える力が大学時代に身についたのが大きかったかなと思います」(太田直)

 太田智樹は昨年12月の日本選手権10000mで従来の日本記録を上回る27分12秒53で2位。今季は10000mで夏のパリ五輪で勝負をして、その後はマラソン挑戦を視野に入れている。一方、太田直希は実業団駅伝で活躍して、ハーフマラソンで記録を狙うという。

 太田兄弟が愛用している『METASPEED PARIS』シリーズは、3月11日からアシックスオンラインストアで一般発売し、3月21日からアシックス直営店(一部店舗を除く)、全国のスポーツ用品店でも順次発売していく。 メーカー希望小売価格は『SKY』『EDGE』ともに27,500円(税込)だ。

〝最速の自分〟を目指すランナーは是非、一度試してほしい。