文・撮影=酒井政人

左から青学大の太田蒼生、黒田朝日

 正月の箱根駅伝は青学大がひたすら強かった。なかでも素晴らしい走りを見せたのが太田蒼生(3年)と黒田朝日(2年)だ。

 太田は箱根駅伝に滅法強く、黒田は昨年の出雲駅伝と全日本大学駅伝で活躍した。今大会でも快走が期待されていたが、そのパフォーマンスは想像の〝斜め上〟だった。

 なぜ2人はこれほどまでに強かったのか。その秘密を紐解いていきたい(全2回の1回目)。

 

太田蒼生は履くと決めていた

 第100回大会に出場した選手は全230人。そのなかで太田と黒田は、ある特別なモデルを履いていた。アディダスの『ADIZERO ADIOS PRO EVO 1』 だ。

 昨年9月のベルリンでティギスト・アセファ(エチオピア)に2時間11分53秒という驚異の女子マラソン世界記録をもたらした〝スーパーシューズ〟になる。

 衝撃の世界新記録ニュースは瞬く間に世界中をかけめぐった。同じアディダスを履く太田にとってもサプライズだったが、同時にチャンスだと感じていたという。

「アセファ選手はレベルの高い方だと思うんですけど、そんなに凄いシューズができたの? とまずは驚きました。世界記録が出たときは日本にはまだ入っていなくて、世界でも数が少ないと聞いていたんです。でも入手できたら『絶対に履こう』と決めていました」

 その後、国内では8万2500円(税込)で限定抽選発売されたが、噂のモデルはすぐに〝蒸発〟した。太田がADIZERO ADIOS PRO EVO 1(以下、EVO 1)を手にしたのは12月中旬だった。箱根駅伝の約2週間前になる。

 太田は迷うことなく、正月決戦での使用を決意。しかし、ファーストトライは、微妙なかたちで終わっている。

「ウォーミングアップは別のシューズで行い、一度も試し履きすることなく、5㎞×2本を走りました。でも見事に撃沈したんです」

  インフルエンザ明けということもあり、設定タイムを10秒ほどオーバーしたのだ。

「体調も悪かったし、履き慣れてないのもあったと思います。でも、すごく軽くて、クッション性があって、反発もある。最初から履きやすいなという感覚はありました」

 2回目は本番最後のポイント練習で履き、3回目はレース前日刺激の1000mで使用。徐々にシューズの〝感覚〟をつかんでいった。

 EVO 1は太田がレースで着用していたADIZERO ADIOS PRO 3をベースにしたモデルで、約40%の軽量化に成功。中足骨をヒントに調整された5本のカーボンスティックを搭載した厚底モデルながら約138g(27 cm片足重量)しかない。太田はPRO 3との違いをこう説明する。

「軽さが抜群に違っていて、履いていても、シューズ(の重さ)がまったく気になりません。走った感触としては、PRO 3はどちらかというとクッション性がやや少なくて反発がある感じなんですけど、EVO 1は沈んだ分、反発が強く返ってくるんです」

 そしてEVO 1を着用した太田が箱根駅伝3区で〝爆走〟する。10000mで日本人現役学生最高の27分28秒50を持つ駒大・佐藤圭汰(2年)を22秒差で追いかけると、7.6㎞付近で並ぶ。10㎞を27分26秒という驚異的なペースで通過しながら、終盤に佐藤を突き放した。

2024年1月2日、第100回箱根駅伝、往路3区、駒大・佐藤圭汰(後方)との差を広げる青学大・太田蒼生 写真=日刊スポーツ/アフロ

「僕はなかなか凄いペースでいったんですけど、後半に何回も仕掛けることができました。脚に余力があったのは、シューズのおかげでもあるのかなと思います」

 太田は3区の日本人最高記録を1分08秒も塗り替える59分47秒で突っ走り、駒大の2年連続3冠の野望を打ち砕いた。