長年にわたって作られてきた定番品は、“当たり前”の良さを持っている。誰もが日常的に使えて、しかも品格あるスタイル作りの役に立つ。そして流行にとらわれず、末長く愛用できるところも魅力的。なかでも独自の哲学を込めつつ、素材や製法にもこだわりを尽くした真のマスターピースを紹介する
写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川剛 編集/名知正登
“ハイゲージ”なら万能にして洒落感も兼備する
ニット素材を使った、かぶり形式のトップス。一般的にセーターと呼ばれるアイテムは、シャツなどの上に重ねられる最もベーシックな保温服のひとつ。なかでも丸首形状であるクルーネック型は、インナーのシャツが襟付きだろうと襟なしだろうと重ねやすいところがポイントだ。そして着回しという観点で考えるなら、ハイゲージと呼ばれる細編みによる無地の薄仕立てが最も便利。というのも、薄手であるからジャストサイズのジャケットの下に着込んでも窮屈でないし、夏以外の3シーズン(特に春先や秋口などの微妙な気温の季節)において、衣服内温度の調整役として非常に有効であるからだ。
洒落感の面でもハイゲージセーターはメリットがある。細編みに用いられる細糸は原材料の繊維が細く長いことが理想であり、希少がゆえに高級品に用いられる。また、厳選の細糸は独特の光沢感を持ち、繊細に編み上げることでしっとりとした優雅な艶を放つところが最大のポイント。細糸には羊毛やカシミヤ、コットンなどの種類があり、ニット専業ブランドによるハイゲージセーターは、シンプルな無地モデルでも、えも言われぬ高級感を醸し出すのだ。シンプルでさり気なく、しかもリッチ。大人のお洒落に欠かせないエッセンスが、この一枚につまっている。
1. Johnstons of Elgin
自社一貫製造がもたらす完成度に注目
英国は歴史の深いブランドを数多く擁するが、ジョンストンズは創立1797年。製品のクオリティを保つため、1811年からは紡績から染色そして縫製に至るまで、自社一貫にて製造を行うスコットランド唯一のメーカーだ。長い歴史のなかで数々の賞を獲得してきたが、2013年にはチャールズ皇太子から英国王室ご用達の許可証(ロイヤルワラント)を授けられている名門である。
なかでもカシミヤ製品は1851年から手掛けており、選別や扱いにおけるノウハウも世界トップクラス。このセーターはカシミヤの最高品質の糸を用いた珠玉作だ。薄手ながらしっかり暖かく、しかも軽量であるのが魅力。編み目が繊細なハイゲージであることはもちろん、身ごろの両わきに縫いしろが存在しないホールガーメント製法である。つまりどのような姿勢でも、フィットしつつしなやかな着心地が楽しめる一枚となっているのだ。