手元に置くことで心躍る逸品がある。それは類い稀なセンスを軸に、厳選の素材を用い丁寧に作られたもの。なかでも長年にわたり、世界から認められてきたブランドの名品に絞ってピックアップ。そのストーリーを深く知ることで、本当のラグジュアリーが見えてくる。

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川剛 編集/名知正登

籐編みモチーフのステッチがシックに個性を引き立てる

 往々にして着こなしは服装自体が語られるもの。しかしバッグが主役となる着こなしも、それはそれで素敵だ。そんなときのバッグは、ある種非日常的な存在感を滲ませるものが理想的。布製よりはレザーメイド。トートバッグよりは気品を感じさせるハンドバッグが好ましい。ただしシックを狙いすぎて、シンプルに過ぎたものでは主役を張ることができない。控えめかつ最小のギミックにて大きな貫録を放つバッグが良いのである。いわゆる定番と呼ばれるバッグは世に数あるが、なかでもディオールの名品鞄は、特に異彩を放っている。

写真=GRANGER.COM/アフロ

 ディオールは同名のデザイナーが1946年に興したフランスのブランド。デビューからほどなく、 なだらかな肩のラインと細く締まったウエストのジャケットとフレアスカートの「コロール(花冠)」ラインを打ち出し注目を浴びた。そのスタイルは「ニュールック」と呼ばれ、天才デザイナーの名を広く世に知らしめるきっかけとなった。

写真=GRANGER.COM/アフロ

 才にあふれるクリスチャン・ディオールは、独自のクラフツマンシップが認められレジオンドヌール勲章を受章するなど、その後絶頂を極めていく。しかし惜しくも1957年に逝去。偉大なメゾンはイブ・サン=ローランにはじまり、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノなど、錚々たるクリエイティブ ディレクターたちにより引き継がれていく。

写真=ZUMA Press/アフロ

 そして件のバッグは1990年代に登場し、あるエピソードをもってアイコニックなアイテムとして注目を集めたのである。当時のフランス首相の夫人が、来仏したダイアナ妃に贈ったバッグこそ、この「レディ ディオール」。レディとはそう、美しき英国王妃を指しているのだ。

 そもそもこの鞄は、「シュシュ」の名で発売されたハンドバッグがオリジン。フランス語で「籐の編み目の革」を意味し、幾何学的ステッチが特別な美観を添えている。ハンドルの根本で輝くメタルロゴは、迷信深かったムッシュ ディオールのラッキーチャームに由来する。持ち歩くたびに鳴り響くチャーム・サウンドも、このバッグにおけるかけ替えのない個性のひとつ。シックであり革新的かつエレガント。それゆえに発売20年以上を経過してもなお、世界の淑女から名品として支持を得ているのである。