文=中野香織

1997年6月28日、マザーテレサとダイアナ妃 写真=WENN/アフロ

5.グローバル・セレブリティ期:華麗な社交、恋愛、そしてリセット

 英王室にいる間は、可能な限りイギリスのブランドを着用していたダイアナ妃だったが、王室から離れると、イギリスブランドには縛られなくなり、ベルサーチェやディオール、シャネル、グッチなどのグローバルブランドを身に着け、各界のセレブリティとも華やかに交流した。

1997年6月、シャネルのバッグを持つダイアナ 写真=WENN/アフロ

 この時期にはダイアナ妃の新しい恋愛も話題になる。パキスタン系イギリス人の心臓外科医、ハスナット・カーンとの恋愛は映画化もされた。カーンとの交際中には、彼の家族に気に入られようと、パキスタンへ足を運んでいる。パキスタンでは、伝統的なパンジャビ・スーツ(長めのチュニックとパンツがセットになった南アジアの民族衣装)と西洋文化を融合したようなモダンなスタイルで人々を魅了した。この装いはまた、カーンヘに対してなにがしかのメッセージを送っていたのかもしれない。

1997年5月、パキスタンの空港に到着したダイアナ妃 写真=Press Association/アフロ

 しかし、セレブ文化とは対極の価値観のなかにいるカーンは、結局、ダイアナと距離を置くことを選ぶ。時を前後して、1997年にダイアナ妃は「クリーン・クローゼット」を行う。自身のドレス79着をクリスティーズのオークションに出品するのである。落札総額は325万ドルだった。

 あれだけのブランドを着こなしていたダイアナ妃が、それらをほとんど投げ出したのである。これまでの自分をリセットし、新しいアイデンティティを獲得しようともがいていたのかもしれない。