文=細谷美香

『プリンセス・ダイアナ』©️Kent Gavin

世界初となる劇場版ドキュメンタリー

 愛や嫉妬、独占欲といった普遍的な感情を描き出すドラマチックな映画のように、さまざまなスキャンダルに見舞われてきた英国王室。9月にはエリザベス女王が逝去し、新しい時代を迎えようとしている。話題にダイアナ元皇太子妃の没後25年。世界初となる劇場版ドキュメンタリー『プリンセス・ダイアナ』が公開中だ。

『プリンセス・ダイアナ』Parkerphotography / Alamy Stock Photo

 この作品のオリジナリティは、ダイアナ自身の苦悩に迫るのではなく、彼女を追いかけた側の映像を集めている点だろう。20歳で皇太子妃となり、常にカメラを向けられる存在となったダイアナ。新たなインタビューやナレーション、テロップなどはなく、婚約から結婚、出産、離婚、衝撃的な若すぎる交通事故死までを、ホームビデオも含めた膨大なアーカイブ映像によって辿っていく。

『プリンセス・ダイアナ』Jeremy Sutton-Hibbert / Alamy Stock Photo

 セント・ポール大聖堂でのロイヤルウェディングや無数の花束が手向けられた葬儀のシーンをはじめ、全編から伝わってくるのはダイアナがいかに大衆を熱狂させたプリンセスだったのか、ということ。それゆえに皇太子や王室の人々から嫉妬され、孤立していったことは想像に難くない。ダイアナのはにかむような笑顔と上目遣いのまなざしからはシャイで不器用な性格が感じられるが、王室を離れてからの慈善活動の様子からは、彼女が本質的に持っていたであろう強さが浮かび上がってくる。

Michael Dwyer / Alamy Stock Photo

 チャールズとカミラの不倫関係を映し出す映像の数々も容赦ないが、改めて驚かされるのは過熱していくパパラッチの姿だ。王室を離れた彼女がメディアをうまく味方につけようとした面もあるだろうし、パパラッチに対して怒りをにじませながらも関心を寄せ続けた大衆が、彼女の逃げ道をなくしてしまったのかもしれない。時代を超えて、ダイアナの人生を追いかけながら、セレブリティとメディアの関係についての問いを投げかけるドキュメンタリーにもなっている。