ダイアナ妃のレガシーとダイアナ革命

 世界から愛されたダイアナ妃の影響は、彼女の死後から続々と現れる。ケンジントン宮殿には多くの花束が寄せられ、イギリスの鬱病患者が減少したことが報じられた。ダイアナ妃の死を悼み、涙を流すことで、逆に心が解放されたためと推測されている。本やコインも多く売れ、慈善団体にも多くの寄付が寄せられたため、「プリンセス・オブ・ウェールズ」ならぬ「プリンセス・オブ・セールス」と呼ばれたりもした。

 ダイアナ効果の最たるものは、感情の自制を美徳としてきたイギリス人の意識革命だった。当時の首相、トニー・ブレアは「ダイアナ妃はイギリス人であることの新しい道を教えてくれた」と語った。感情を表すこと、弱さを見せることは決して悪いことではないとダイアナ妃が身をもって教えたことで、彼女の死後、自らのつらい経験を告白する人が増えた。メンタルヘルスへの関心も高まった。

 また、イングランド人ではないデザイナーを起用したり、ゲイの友人をもったり、イスラム教徒と恋愛関係になったりと、差別や偏見がまったくないダイアナ妃の行動は、一気に多様性社会を後押しすることにつながった。

 ファッション界にしても、グッチがダイアナ妃にトリビュートを捧げるバンブーバッグを2021年に発売するなど、いまなおダイアナ妃がファッション広告を賑わせている。11月9日からはNetflix の「ザ・クラウン」シーズン5が配信され、エリザベス・デビッキ演じるダイアナ妃のリベンジドレスも再現されることが予告されている。このドレスのシーンを契機に、ダイアナ妃が新たな層の関心を呼び起こすことは想像に難くない。

 16年間という短い期間に、ファッションを通して「女の一生」を、人間的な感情とともに鮮やかに濃密に見せてくれたダイアナ妃。そのレガシーは、英王室やイギリス社会を変えたという歴史を超えて、因習と闘いながら懸命に自分の生き方を見つけようと奮闘した一人の女性の生き方の例として、多くの女性たちの共感を呼びながらこれからも語り継がれていくだろう。