今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。

写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登

“類似したもの同士は互いに影響しあう”。人類学者のジェームズ・フレイザーは、著書『金枝篇』において、この法則を“類感呪術”と定義した。要は“似たものは似たものを生み出す”という考えに基づき、直接引き起こすことは困難または不可能な事象を、それと類似した容易な事象を引き起こすことで実現させようとするもの。これを用いて術者が特定の人物の格好を模倣することで、その能力や威光を己が身に写し取ることも可能であるという。

 唐突にオカルティックな語りで困惑させつつ繋げる今回のテーマは、“カルチャー史にその名を刻んだ伝説的人物たちが愛したモデル”。賢明なる読者諸氏であっても、一度は踊らされた経験があろう「○○愛用」の惹句。それは憧れのミュージシャンや俳優、著名人…etc. あの頃、雑誌やMVにチラリと映った彼らの足元に履かれていたスニーカーへの憧憬に他ならず、今回はこれに焦点を当てる。どれも各社を代表するアイコン的一足ではあるが、そこに“時を経てなお語り草となっている英雄たちが愛した”という付加価値が乗ることでオールタイム・スタンダードとなり得る。

 ちなみにlegend(伝説)の語源は、ラテン語で聖人伝を意味するlegenda。これを直訳すると、その意味は“読まれるべき”。というわけでページを離れることなく、最後までしばらくのお付き合いを。

 

1. adidas Originals「SUPERSTAR」

スニーカー¥10,890/アディダス オリジナルス(アディダスお客様窓口)

オールドスクール期を象徴するスリーストライプス

 回り出したターンテーブル、スピーカーから流れる1曲目は「Walk This Way」。1980年代前半に結成された3人組ヒップホップグループ、Run-D.M.C.。エアロスミスとコラボした同曲でヒップホップとロックの融合を実現させ、現在へと続くラップの礎を築いた彼らは、ファッションにおいても先駆者であった。

 トラックスーツやレザーブレザーにハット、アクセはゴールドチェーン。要は、ニューヨー・クィーンズの不良の格好でステージに上がった彼らの足元には、アディダスの「スーパースター」。

 元々はプロユースのバッシュとして開発されたが、これを契機に、文字通りストリートの輝ける星となった。トゥ部分にあしらわれた貝殻状の補強パーツ“シェルトウ”は、己のスタイルを守ることの重要性を示しているようにも思える。