今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。

写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登

「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」松尾芭蕉

 松尾芭蕉といえば、旅の途中で出会った情景、心情を俳諧紀行文としてまとめた一連の作品で知られる江戸時代前期の俳諧師。その最たるものが『おくのほそ道』であり、この句は彼が山形県の立正寺に立ち寄った際に詠んだもの。森深い山中にあり、登山口から1070段以上の石段を登った先の絶壁の上に建つお堂、通称・山寺。そこでは、蝉の鳴き声が山々に反響し、こだまとなり戻ってくる。そんな俗世の騒がしさから離れた、閑(しず)かな世界に、心が吸い込まれていく様子を表現しているのだという。

 ちなみに俳諧とは、室町時代に流行した連歌の遊戯性、庶民性を高めた形式の総称。これが芭蕉の登場により芸術性と冒頭部分の発句の独立性が高まり、時代の経過とともに俳句と呼ばれるようになったそうだ。

 そこで今回のテーマ。俳句と同じく“時代に合わせて進化した”ハイクシューズである。「頑丈ではあるが重くて疲れる」なんて、今は昔。最新モデルは軽くて機能性も抜群。履き心地の良さは言うに及ばず、近年人気高まるハイキングのみならず旅の相棒にもうってつけ。芭蕉が旅に出始めたのも40代からというし、この句を詠んだのも現代の暦で7月上旬。ならば今から手に入れてもまだ間に合う。そして実際に履き、山寺に向かいその進化を体感してみては。

「山靴や 足にしみ入る 機能性」読み人知らず

 

1. HOKA「KAHA 2 LOW GTX」

シューズ¥38,500/ホカ(デッカーズジャパン)

最高のパフォーマンスを実現させる、最上の履き心地

 近年、名を上げたブランドは多くあれど、成長著しいのが〈ホカ〉だ。“山をラクに飛ぶように駆け降りることができるシューズ”を作るという想いからスタートした同社。

 そのプロダクツの特徴を挙げるならば、誰しもが驚く柔らかなクッショニングに尽きる。ハイキングシューズである本モデルにも当然、このクッション性は継承されており、様々な地形にフィットするスワローテイル形状のヒール、トラクションラグを備えて防滑性を高めたヴィブラム メガグリップのアウトソール、不整地でも歩きやすいメタロッカーテクノロジーとの四つ巴で歩行をサポ―ト。

 またリサイクル素材を採用したゴアテックス ファブリクスを搭載した軽やかなレザーアッパーもありがたい。シューズ内をドライに保ち、快適なハイクが楽しめるはずだ。