大谷 達也:自動車ライター
EVボルボの象徴
ボルボの最新モデルにしてフラッグシップモデルのEX90にアメリカ・ロサンジェルス郊外で試乗した。
同社がEVをリリースするのは、C40、XC40、EX30に続いて4台目。EV専用のアーキテクチャー(自動車の設計開発や生産を行なう際の基本技術を指す)を用いたモデルとしてはEX30に続く2台目で、ボルボが本格的なEVメーカーに脱皮することを象徴したモデルといって間違いない。
そう、ボルボは2030年までにEVのみを販売するEV専業メーカーに転身することを公言しているのだ。
(追記・この記事の公開とほぼ同タイミングの9月4日のプレスリリースにてボルボは、2030年までにEVとPHEVでおよそ90%以上、残る0~10%はマイルドハイブリッドにすると発表した。それでも、2040年までには企業活動のすべてをネットゼロ化をする方針に変わりはないし、将来的には100%EV化するとしている)
これはなかなか野心的な計画である。
長い伝統を持つヨーロッパの有名自動車ブランドがEV専業に転身するのは、すでにエンジン車の生産を終了しているイギリスのジャガーに続き、ボルボが2例目となる。
既存の自動車メーカーがEV専業になるのは、大きな賭けだ。ヨーロッパの一部では充電施設が充実してきているのでリスクは小さいものの、世界的にみれば、EV専業となった途端にセールスが急落する恐れのある市場は、まだまだたくさん残されている。したがって、EV専業となることは、そうした市場からの実質的な撤退を意味する。経営者としては、かなり思い切った決断といえるだろう。
それでも、ボルボはEV専業メーカーになる覚悟を決め、それを実行しようとしている。
私には、ボルボがこの決断を下した背景がよく理解できるし、彼らが生き残るためにはこれが最善の策であるように思えなくもない。
なぜボルボはEVブランドになるのか?
ボルボは生産台数が年間70万台ほどの、比較的規模が小さなプレミアムカーブランドである。プレミアムカーブランド、すなわち価格帯の高い製品を主力とするメーカーであれば、必然的にその市場は先進国が中心で、充電施設を中心とするインフラが整った地域が多いと推測される。つまり、EV専業に舵を切るリスクは、大衆車メーカーに比べて小さいと推測されるわけだ。
また、ボルボはその先進的な思想で顧客からの共感を得てきた自動車メーカーでもある。
かつてはボディが強固で、事故に遭った際の受動的安全性(パッシブセーフティ)に優れていることで定評があったボルボは、その後も安全性の改善に積極的に取り組むなど、「人間中心(Human Centric)」な思想を推進していることで世界的に知られる。
そうした思想の先に「カーボンニュートラル社会の実現」が控えていることは、ある意味で必然だろう。しかも、企業規模が大きいとはいえないボルボが、巨大メーカーと伍して様々なカーボンニュートラル技術にチャレンジするのはリソース的に無理がある。勢い、早期の実用化が可能で、将来的に主流になると見込まれているEVを彼らが選択したのは、ある意味で理に適っているように思える。