昨年末に発表され、今年1月から日本でも受注開始となった新型『レンジローバー』。1970年の初代から数えて、5代目のモデルだ。電動化を最初から視野にいれたプラットフォーム、充実した自動運転支援システム、先進安全装置など、期待されるアップデートは当然採用。ロングホイールベースモデルにて、レンジローバー初の3列7シートが実現したことで、最高級にして最高の走破性をもったピープルムーバーにもなった。
しかし、何より目を引くのは、大胆に再解釈されたそのルックス。自動車界のアイコン『レンジローバー』である。当たらず障らずで十分、成功できるであろうに……
アメリカワインのメッカ、ナパ・バレーの国際試乗会に参加した大谷達也はこれをどう読み解く?
かつてないクルマのデザイン
巨大なサンフランシスコ国際空港を飛び立ったヘリコプターは、進路を北にとって200kmほど飛ぶと、名もない丘の上に着陸した。あたりには何もない牧草地のど真ん中。そこで、ゴールドメタリックに輝く新型レンジローバーは私たちがやってくるのを待ち構えていた。
「なんてぜいたくな演出だろう」
ヘリコプターから降り立った私は、そんな感慨にふけっていた。
国際試乗会にはこれまでにもたくさん参加させてもらったし、分不相応なゼイタクをさせていただいたことも1度や2度ではない。しかし、今回ばかりは別格だった。そのスケールの大きさとセンスのよさに、私はただただ打ちのめされていたのである。
そしてそこに並んでいるレンジローバーの姿にも、私は深い感銘を受けた。表面がツルッとしたシンプルな形状は、まるで未来からやってきた宇宙船か、自動車ショーに出品されるデザインコンセプトのよう。しかし、私の目の前にあるレンジローバーには、すべてカリフォルニア州のナンバープレートが取り付けられている。つまり、正真正銘のロードカーなのだ。なのに、新型レンジローバーは普通の量産車とはかけ離れた雰囲気を漂わせている。その理由を突き止めたくて、私はひとり、レンジローバーのエクステリアを眺めていた。
やがて、その謎は解けてきた。
まず、徹底的なフラッシュサーフェイス化が施されていることが、理由の第一。フラッシュサーフェイスとは、要は段差をなくすこと。新型レンジローバーのボディパネルや窓ガラスは、すべてが段差なく、滑らかに連なっているように見える。しかも、ボディサイドを飾るキャラクターラインの類いも徹底的に排除するか、たとえ入れ込んでもできるだけシンプルな形状にすることで、ツルッとしたボディ表面の表情を際立たせている。これほど滑らかな表面が与えられた自動車は、かつてなかったのではないだろうか?
このフラッシュサーフェイス・ボディをさらに強調しているのが、シャットラインの少なさである。シャットラインとは、ボディパネルとボディパネルのつなぎ目のこと。普段はあまり気にも留めない部分だが、シャットラインを減らせばボディ全体がひとつの面で構成されている印象がさらに強まる。新型レンジローバーのデザインが、まるでタマゴの殻のように見えるのは、このためといっていい。
ただし、これらはチーフデザイナーであるジェリー・マクガヴァンが描き出したプロポーションをより美しく、そして純粋な形で表現するための手法といえなくもない。ちなみに、これまでもプロポーションの美しさを重視してきたマクガヴァンは、従来型レンジローバーに3列シート仕様を求める声がセールスの現場から届いたときにも、「室内スペースが十分な3列シート仕様を作るにはルーフラインを変えなければならず、結果としてプロポーションが崩れる」ことを理由に、これを断り続けてきたという。そんな彼が、プロポーションで妥協することなく作り上げた3列仕様がついに用意されたことも、新型レンジローバーの見どころのひとつであろう。