全長5m超の堂々たるSUV

 アメリカ西海岸の地で初めて対面したEX90は、堂々としたボディサイズであると同時に、いかにもボルボらしいデザインでまとめられていて魅力的だった。

 全長は5mをわずかに超えているから、BMW X5やメルセデス・ベンツGLEといったプレミアムSUVとほぼ同じか、それらをいくぶん上回るサイズだ。広々としたアメリカで見るとさほど大きくは感じないものの、おそらく日本の公道で出くわしたら、その存在感に軽く圧倒されることだろう。

 ボルボの現行ラインナップは、そのほとんどが元チーフデザイナーのトーマス・インゲンラートを中心としてデザインされたもの。例外は、ボルボ初のEV専用アーキテクチャーを得てひと足先にデビューしたEX30だが、EX90のデザインもその延長線上にあるといって構わない。ひと目でボルボとわかるいっぽうで「ほどよい先進感」も備えていて、多くの人に受け入れてもらえそうだ。

 試乗車はツインモーター・パフォーマンスと呼ばれる最高級グレード。前後に計2基のモーターを搭載し、最高出力:517psと最大トルク:910Nmを発揮し、0-100km/h加速は4.9秒で駆け抜ける瞬足の持ち主だ。

EX90のプラットフォームの全体像。写真左側が車両後方、右側が進行方向。フロアにバッテリーを敷き詰めたEVらしいレイアウト

 ただし、最高速度は180km/hに制限される。これは、180km/hを越える速度域では事故に伴う死傷率が急激に高まることを踏まえて決められたボルボの方針で、EX90に限らず同社のすべての製品に導入されている。これもまた野心的で、実にボルボらしい思想といえる。

EVであることを考えても静かで乗り心地がいい

 走り始めると、その騒音の低さ、そして乗り心地の快適性に驚かされる。とりわけ、同クラスのエンジン車から乗り換えたドライバーであれば「EVって、こんなに静かで乗り心地がいいんだ!」と瞠目するはず。静かなのはEVだから当然かもしれないが、EX90は液体封入ブッシュを足回りに採用することで路面からの振動を遮断。さらに高剛性ボディを採用したほか、遮音材や吸音材を活用することで、この静粛性を実現したそうだ。

 乗り心地のよさは、前述の高剛性ボディにくわえ、2チャンバー式エアサスペンションと減衰率可変式ダンパーなどを駆使した結果だろう。とりわけ、荒れた路面でもゴツゴツとした印象を伝えない点はなかなか見事。また、重いバッテリーをフロア下に搭載することで低重心化を実現したことも乗り心地の改善に効いてるはずだ。

 ハンドリングが正確で、車重が2.5トンを大きく越えているにもかかわらず軽快なコーナリングを示す点も印象的だった。聞けば、ディファレンシャルギアの代わりに2組のクラッチを組み合わせた駆動力伝達機構をリアに用いることで、左右の後輪が生み出す駆動力を独立して電子制御するトルクベクタリング機構を実現し、これを俊敏なコーナリングに役立てているという。

リアモーター部のクローズアップ。中央がモーターとデュアルクラッチ・トルクベクタリングシステム。 写真左側から順にリアモーター、ギアボックス(変速はしない、純粋な減速機構)、デュアルクラッチ・トルクベクタリングシステムの順で並んでいる

 率直にいって、従来のボルボは乗り心地やハンドリングといったシャシー性能の点で、ドイツのプレミアムブランド御三家にかなわない部分があったが、EX90は完全にライバルたちと互角のレベルにある。これと、北欧らしいシンプルでありながらもクォリティ感の高いインテリア、そしてボルボが誇る高い安全性があれば、ドイツ製プレミアムカーにも負けない価値があると思う。

サステナブルな素材を使用しクリーンで明るいデザインでまとめられたボルボらしいインテリア。安全システムとAI用にNVIDIA DRIVEプラットフォームXavierとOrin、クアルコム・テクノロジーズのSnapdragon® Cockpit Platforms、そして、ボルボのエンジニアによる自社開発ソフトウェアを搭載。ボルボは車輪の上に乗った高度なコンピュータと謳う

 唯一の心配は、トップグレードだと1200万円前後になると見られる価格かもしれない(アメリカでの税抜き価格。今回試乗したツインモーター・パフォーマンスの英国での税込み価格はおよそ1900万円)。これはボルボが初めてチャレンジする価格帯だ。それに見合ったバリューがあることを顧客に的確に伝えられるかどうかで、セールスの行方は決まってくるだろう。