大谷 達也:自動車ライター
ロータス初の4ドアGT……しかしBEV?
ドイツとオーストリアの2ヶ国にまたがって開催されたロータス・エメヤの国際試乗会に参加してきた。
エメヤはロータスにとって初の4ドアGTモデル。普通であれば、その完成度を楽しみにしながら試乗会に向かうところだが、今回はいささかの不安を禁じ得なかった。
なぜか?
実はエメヤ、4ドアGTであると同時に電気自動車でもあるのだ。それもエンジンを積んでいない純粋なEV、いわゆるBEVなのである。
いまさら私がいうまでもなく、軽量かつ意のままに操れるハンドリングを備えたライトウェイトスポーツカー作りこそ、コリン・チャップマンによって1948年に設立されたロータスがもっとも得意とするところ。しかし、前述のとおりエメヤは車重が2トンを超えることも珍しくないEVである。「そんなクルマでロータスの伝統的な魅力を感じられるはずもない」 私がそんな懸念を抱いていたことも、これでご理解いただけたことだろう。
ロータスの現在地
では、ライトウェイトスポーツカーを得意としてきたロータスが、なぜEVを作ることになったのか?
これはロータスのような小規模自動車メーカーではよくあることだが、創業者のチャンプマンが1982年にこの世を去ると、会社のオーナーシップはチャプマン家の手を離れて転々としていった末に、2017年には中国のジーリーによって買収されることになった。
2010年にボルボを買収したことで名を馳せたジーリーには、自動車メーカーであるジーリー・オートのほかにホールディング会社があるが、ボルボやロータスを買収したのはこのうちのホールディング会社のほう。ちなみに同社はアストンマーティンの大株主であると同時に、同社会長は2018年にダイムラー(メルセデスベンツの親会社)の筆頭株主になったことも報じられている。
もっとも、ジーリーは親会社になっても子会社に強権を振るうことはなく、ボルボもアストンマーティンもこれまでと大きく変わらないブランド性を維持している。
ただし、ロータスだけには明確な路線変更を強いた。前述したとおり、これまでの軽量コンパクトなスポーツカーからEVへと大きく舵を切ったのだ。ちなみに、現在も従来路線の延長線上にあるエミーラというコンパクト・ミドシップカーが唯一ラインナップされているが、それ以外は超高性能スポーツEVのエヴァイヤ、そして4ドアSUVでEVのエレトレというモデル構成。そして、ロータスEVシリーズの3台目としてリリースされたのが、今回のエメイヤだったのである。
このうちエミーラはライトウェイとスポーツカーとして極めて完成度が高く、好印象を抱いたものの、エヴァイヤとエレトレにまだ試乗したことがない私は「2トンを超えるロータスなんてロータスじゃない」という思いが拭いきれず、半信半疑でエメヤの国際試乗会に参加したのである。