大谷 達也:自動車ライター
電動化と国際化
オリジナル・ミニの誕生から65年を経た今年、ミニに量産仕様初となる電気自動車(EV)が追加された。
もともとイギリス生まれ、イギリス育ちのミニが、2001年にBMWグループ傘下となって再出発を果たしたことはご存知のとおり。これに伴い、主たる開発はBMW本社があるミュンヘンで行われるようになったものの、生産はその後もイギリスに留まり続けた。つまり、イギリス製という伝統は保たれたのである。
しかし、この度デビューした最新型のミニでは、生産地についても国際的な色合いを強めた。
今回、リリースされたのは、オリジナルの伝統を受け継いだ3ドア、そして従来のクロスオーバーからカントリーマンへと名称を改めたSUV風5ドアの2モデル。実は、その後を追うようにしてエースマンという新型車もデビューしたので、これについてもあわせて紹介しよう。
まず、ミニ3ドアのEVは中国に設立されたBMWと長城汽車の合弁会社である光束汽車の張家港工場で生産される。つまり、ついにミニはイギリス国外でも生産されるようになったのだ。
いっぽう、同じ3ドアでもエンジン車のほうはこれまでどおりイギリスのオックスフォード工場で生産される。
そしてカントリーマンはEV、エンジン車ともにイギリスを飛び出し、BMWグループのドイツ・ライプツィヒ工場で作られる。
残る新型車エースマンはEVのみの設定で、3ドアと同じ張家港工場での生産となる。
なぜ、同じミニなのにイギリス、ドイツ、中国の3ヶ国で生産されることになったのだろうか?
その理由は、ひとくちでいえば生産の効率性にあるはず。たとえばカントリーマンはBMWブランドのX1やiX1(X1のEV版)、X2やiX2(X2のEV版)と共通のアーキテクチャーを用いているので、EVかエンジン車かに限らず、これらはまとめてライプツィヒ工場で生産するのが合理的というわけ。
いっぽうで3ドアEVとエースマンはこれとは別のEV専用アーキテクチャーなので、これまでどおりオックスフォード工場で生産するという手もあったはずだが、実は、2モデルともに中国市場での販売が計画されている。その中国ではEVを新エネルギー車と位置付け、減税措置などのインセンティブが受けられるものの、この条件を満たすには中国製バッテリーを搭載することがひとつの条件となっている。残念ながらミニ3ドアEVとカントリーマンに搭載されるバッテリーのサプライヤーは公表されていないけれど、こういった経緯を踏まえれば、中国製のバッテリーを搭載していると考えるのがコスト面から考えても自然なこと。「だったら、いっそのことクルマそのものも中国で作ったほうが合理的」という判断に至ったとしても不思議ではない。
唯一、こうした合理性から外れているのが、イギリスで作り続ける3ドアのエンジン車だが、この点はやはり伝統が重んじられた結果と推測される。