大谷 達也:自動車ライター
なぜSVRではなくSVなのか?
レンジローバースポーツにハイパフォーマンス仕様の“SV”が追加された。
こう書くと、「あれ、SVRの間違いじゃないの?」と思われるレンジローバー・ファンがきっといるだろう。なぜなら、先代はレンジローバースポーツSVRの名で親しまれていたからだ。
かくいう私も似たような疑問を抱いたが、たしかに新型のモデル名からはRが消えてSVとなった。こうなると紛らわしいのが、スポーツのつかないレンジローバーにも同じSVが設定されていることにある。しかも、レンジローバーSVのほうはハイパフォーマンス仕様ではなくラグジュアリー仕様とされている点もわかりにくい。
この点を同社のマーケティング担当に訊ねたところ、「今後、SVは各製品の特徴をもっとも強調したグレードに与える」との回答が返ってきた。つまり、レンジローバーはラグジュアリーであることが最大の特徴だから、そのラグジュアリーさを極限まで強調したのがレンジローバーSVであり、レンジローバースポーツはレンジローバーの個性を生かしながらもよりダイナミックなパフォーマンスを追求したモデルなので、シリーズ中もっともスポーティなグレードにレンジローバースポーツSVの名が与えられたというわけだ。
従来以上のハイパフォーマンス
事実、新型レンジローバースポーツSVのパフォーマンスは、従来型のレンジローバースポーツSVRを大きく凌いでいる。自社製5.0リッターV8スーパーチャージドからBMWと共同開発の4.4リッターV8ツインターボに置き換えられたエンジンは60psと50Nmを上乗せして635psと750Nmを発揮。この結果、0-100km/h加速は4.5秒から3.8秒へと劇的に速くなった。
それとともに印象的なのがコーナリング性能で、最大のコーナリングGは従来型の0.9Gから1.1Gへと改善された。これはひと昔前のスポーツカーに匹敵する数値だが、それを純然たるスポーツタイヤではなく、ミシュラン・パイロットスポーツ・オールシーズンというオフロード性能も確保したタイヤで実現しているところが、いかにもレンジローバーらしい。ちなみにサーキット試乗の際は同じミシュランのパイロットスポーツS5を履いていたが、この場合は最新のスーパースポーツカー並みの1.3Gを発揮するというから驚く。
こうしたコーナリング性能を生み出す原動力のひとつが、新機軸の6Dダイナミック・エアサスペンションである。これはサスペンションダンパーの油圧回路を、対角線上に位置する車輪の間で結ぶことにより、ボディの姿勢変化を抑えるというもの。ちなみに対角線上の車輪で結びつけられるダンパーの油圧回路は、片方が伸び側とすれば反対側は縮み側とすることで、お互いに押し返す作用を生み出し、姿勢の安定化を図っている。
6Dダイナミック・エアサスペンションのメリットは、コーナリング時のピッチングやローリングを抑えて4輪の接地圧を均等に揃えることにより、4本のタイヤが生み出すグリップ力を最大限引き出せる点にある。また、6Dダイナミック・エアサスペンション自体にボディのローリングを抑える機能があるため、スポーツモデルに幅広く装着されているメカニカルなアンチロールバーが不要になるのもメリットのひとつ。というのも、4輪のサスペンションが個別にストロークするのを阻もうとするアンチロールバーには、乗り心地を損ねる作用があるからだ。
この油圧回路には、ボディが傾いていないと判断されたとき、上述した油圧回路の連結部分を切り離す機能も盛り込まれている。この場合、4輪のサスペンションは独立した動きがより自由にできるようになり、乗り心地はさらに快適なものになる。