ディフェンダーにV8搭載モデルが追加。これまでは2Lのガソリンと3Lのディーゼルのみだったので、パワートレインの選択肢が拡がった

ランドローバーの緻密な戦略

 ランドローバーのディフェンダーにV型8気筒エンジンを搭載するモデルが追加されました。文字にするとたったこれだけのことですが、ここからはランドローバーの緻密な戦略を読み解くことも出来ます。

 ランドローバーは現在、ランジローバー/ディスカバリー/ディフェンダーを3本柱としています。レンジローバーはラグジュアリーと洗練性、ディスカバリーはレジャーと多用途性、そしてデイフェンダーはデュアルパーパスと頑強性といったように、コンセプトや用途を明確に区別してきました。1948年にディフェンダーの祖先とも言えるシリーズ1を世に送り出して以来、一貫してSUVのみの商品で戦ってきたわけですから、ラインナップの差別化と明確化は彼らにとって必要不可欠な案件でもあるのです。

 ディフェンダーは現在、90/110/130と呼ぶ3タイプのボディを展開していて、90は2ドア、110と130はどちらも4ドアですがホイールベースが異なります。それらに、3Lのディーゼルエンジンや2Lのガソリンエッジンを用意していましたが、90と110に5LのV8が新たに加わりました。

 エンジンを追加、特にパワフルなエンジンを追加するというのは、私達が思っている以上に大変な作業でもあります。2Lのガソリンエンジンは最高出力300psを発生しますが、5LのV8は525ps。このパワーに耐えうるボディやシャシーや駆動系などを開発当初から設計要件に盛り込んでおかなければならないし、場合によってはエンジン以外の部分にさらに改良を加える必要も出てくるからです。

4999ccのV型8気筒エンジンはターボではなく、スーパーチャージャで過給する。最高出力525ps/6500rpm、最大トルク625Nm/2000-5500rpmを発生。8速ATと組み合わされる

V8に対応可能なスペック

 ディフェンダーは開発段階でV8搭載が決まっていたそうで、強靱なモノコックボディをはじめとする各部は、V8に対応可能なスペックがすでに盛り込まれていました。つまり、2Lエンジン搭載車にしてみれば、ややオーバースペック気味なボディやシャシーを備えた贅沢な仕様とも言えます。

 試乗したのは4ドアの110。4本出しのマフラー、スエードが巻かれたステアリング、サテンクロームのシフトパドル、マトリックスLEDヘッドライト、グロスブラックのブレーキキャリパー、電子制御式エアサスペンション、ダイナミックプログラム付きテレインレスポンス2などはV8仕様に標準装備となります。

V8モデルにはさまざまな専用装備が用意されている。左右それぞれ2本出しのマフラーもそのひとつ

 インテリアはこのクルマのキャラクターを踏まえた、機能性重視のデザインになっています。それでも本革シートなどによりそこはかとなく高級感も漂っています。ディフェンダーは、どちらかと言えば軽快でカジュアルな乗り味でしたが、振動が少なく静かなV8になったおかげで、パワートレインの印象にも高級感が付与されたように感じます。
 

機能性を重視したディフェンダーのインテリア。スエード巻きのステアリングなどはV8専用装備。そこはかとない高級感も漂っている

 このV8エンジンを過給しているのはターボではなくスーパーチャージャ。エンジンのクランクシャフトから駆動力を得ているスーパーチャージャは、一般的なターボよりも早く空気の過給が始まる点が特徴です(ただし最近のターボはさまざまな技術を用いることで、ターボラグはほとんど解消されています)。そのおかげもあって、625Nmの最大トルクの発生回転数は2000rpmですが、それ以下の回転数でも力強い加速感が体感できます。いっぽうで、最高出力の発生回転数は6500rpmに設定されています。これにより、高回転域まで息の長い加速が維持できるようにもなっています。

コントロール性の高い操縦性

 ディフェンダーの乗り心地や操縦性を高いレベルで成立させているのは、エアサスに因るところがとても大きいです。オフロード走行も想定されるSUVでは、エアサスの最大の目的は車高調整ができるところにありますが、ディフェンダーはオンロードでの優れた乗り心地とコントロール性の高い操縦性も備えています。

 これが実現できるのは、エアサスの制御の妙はもちろんのこと、やはりボディやシャシーといった体幹がしっかりしているからに他ありません。まずはとにかく体幹や骨格をしっかり作るという思想とそれが出来る技術力は、老舗のオフロードSUVメーカーならではと言えるでしょう。

オフロードの走破性はクラストップレベルだが、オンロード性能にも優れる。快適な乗り心地や回頭性のよい操縦性などは、標準装備のエアサスの効果も絶大だ

 そもそもディフェンダーは素性がよく“キャラ立ち”もしていて、V8なんか必要ないのではという声もあるようです。それでもランドローバーがV8の投入に踏み切ったのは、仮想敵とされるメルセデスGクラスを意識した戦略と見てとれます。G550は同じV8を搭載していますが、あちらは4Lで最高出力は422ps。排気量でもパワースペックでも、ディフェンダーのV8のほうが勝っています。

さらにGクラスにエアサス仕様はなく、価格はほぼ同じ。乗り心地を含む快適性はディフェンダーのほうが圧倒的に高いので、日本ではちょっと異常とも思えるGクラス人気に一矢を報いるという戦略なのかもしれません。