ラグジュアリーブランド必須のモデル
“2ドアクーペ”というボディ形状はラグジュアリーブランドが必ず揃えるお約束のプロダクトのひとつとなっています。でも実際のところ、2ドアクーペは決して爆発的に売れる商品ではありません。それでも彼らが“必須”と考えるのはなぜでしょうか。
理由のひとつは、2ドアクーペはとても贅沢な商品であるということです。ここで言う2ドアクーペは、同じように2枚ドアを持ついわゆるスポーツカーは含まれず、強力なパワーを誇るエンジン(やモーター)、スポーティなセッティングの専用サスペンションは装備していないので、動力性能や操縦性はラグジュアリーセダンと同等なのがほとんどです。つまり圧倒的な動的性能を備えているわけではありません。
2ドアの商品にはカブリオレやコンバーチブルと呼ばれる、ルーフが大きく開いて収納されるものもあります。これならば、ルーフが被っているときは事実上2ドアクーペでもあるので、クーペとオープンの二刀流が楽しめますが、当然のことながら2ドアクーペの屋根は開きません。
また、2ドアクーペは後席へのアクセスも悪く、オーナーのほとんどはふたり乗りで使用しています。秀でたスポーツ性能があるわけでもなく屋根も開かずふたり乗りが前提の2ドアクーペには、「スポーツ走行を楽しみたいからスポーツカー」「開放感を味わいたいからオープンカー」といった分かりやすい選択理由が存在せず、でもこれが逆に「それでもあえて2ドアクーペを選ぶ」というオーナーのこだわりを示すことになっています。機械式時計を所有するメンタリティに少しに通ずるところがあるかもしれません。
ボディサイズは従来のEクラスクーペ
これまでメルセデス・ベンツは、CクラスとEクラス(少し前まではSクラス)に2ドアクーペをラインナップしてきました。あらたに登場した2ドアクーペは「CLE」と名付けられ、同時にCクラス/Eクラスのクーペはなくなりました。この2台を統廃合したのがCLEということになります。
車名に「E」のアルファベットが入っているのは、ボディサイズが従来のEクラスクーペとほぼ同等だからです。いっぽうで、ホイールベースは現行のCクラスと同値で、外見はEクラスだけど中身はCクラスというのが実状です。前述のように、2ドアクーペは開発がなかなか大変(=大きなドアと大きな開口部を備えるため、剛性や強度を確保したボディ設計が難しい)なわりに大きな利益は見込めないけれど、だからといって廃止するわけにはいかないので、CとEをミックスする(=コストを抑える)ことでビジネスの観点からも成立する商品としたと思われます。
現時点ではディーゼルが1種類、ガソリンの4気筒が3種類、6気筒が1種類の計5種類が用意されていますが、来年にはここにPHEVが加わることになっています。すべてISG仕様(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)なので、発進時や加速時にはモーターによる駆動力のサポートが受けられます。サスペンションはCクラスと同類で、Eクラスのようなエアサスペンションは装備されません。
乗り味は完成度が高いCクラス
当然のことながら、メルセデスCLEの乗り味は基本的にCクラスのそれにとてもよく似ています。ただしこれはネガティブな意味ではありません。現行Cクラスは極めて完成度が高く、2ドアクーペになってもそれがほとんど変わらないというのは、エンジニアリング的にはむしろ高く評価されるべきでしょう。ゆったりとした乗り心地、正確で安定した操縦性、パワースペック以上の豊かな動力性能は、CLEのどのパワートレインにも共通しています。唯一の6気筒エンジンであるCLE450 4MATICは、6気筒らしい振動の少なさと滑らかなエンジン回転フィールが味わえるので、ラグジュアリークーペとしての上質な雰囲気が際立っていました。
インテリアの景色はCクラスそっくりですが、エクステリアは流麗できれいな唯一無二のフォルムをしています。スポーツカーのような動的性能や、セダンやワゴンほどパッケージの優先度は高くなく、それゆえ2ドアクーペでもっとも重要な性能はスタイリングとも言われています。CLEはBピラー後方からリヤにかけて左右が大きく絞り込まれています。後席やラゲッジのスペースをもっと優先したらここまではできなかったはず。クーペならではのデザインです。そうはいっても、後席もトランクも必要にして十分のスペースはちゃんと確保されていました。
「きれいだから」という理由で選んでもらえたら、それはきっとCLEの開発チームの本望に違いありません。