大谷 達也:自動車ライター

いよいよ日本でゴルフ8.5に乗る!

 マイナーチェンジを受けたフォルクスワーゲン・ゴルフがようやく日本にやってきた。8世代目のゴルフ=「ゴルフ8」のマイナーチェンジ版なので、巷では「ゴルフ8.5」とも呼ばれる。

試乗会の拠点は東京・キラナガーデン豊洲

 話はいきなり脱線するが、先ごろマイナーチェンジを受けたポルシェ911は、現行世代のコードネーム「タイプ992」のマイナーチェンジ版ということで「タイプ992.2」と呼ばれる。ただし、不思議なことにこれを「タイプ992.5」と呼ぶ人は滅多にいない。同様にして、新型ゴルフを「ゴルフ8.2」と呼ぶ人もいない。単なる慣習ではあるけれど、ちょっとばかり気になることではある。

 閑話休題。

 ドイツ本国で発表された新型ゴルフの詳細なプレスキットに目を通すと、パワートレイン、エクステリア、インテリア、運転支援システム、標準装備品については言及があるけれど、私が気になって気になって仕方がない乗り心地の改良についてはまるで記述がなかった。

 私がゴルフ8(マイナーチェンジ前のモデル)の乗り心地に不満を抱いていたことは、オートグラフの「VWプルービンググラウンド訪問記」でも記したとおり。そこで、フォルクスワーゲンのドライビングダイナミクスを統括するエンジニアのフローリアン・ウンバッハと出会い、彼がホイールコントロール(足回りに激しいショックが加わった直後に微振動が起きる現象)といかに向き合ってきたかについて話を聞いた。

 その過程で、フローリアンが目指す足回りの方向性が、私の好みとぴったりとマッチしていることも明らかになったのだが、彼はゴルフ8開発の最盛期に同じフォルクスワーゲン・グループ内のブガッティに出向していたこともあって、ゴルフ8は彼の期待値に達しないままリリースされてしまったらしい。ゴルフ8.5の開発は、そんなフローリアンにとって「失われたときを取り戻す作業」でもあったはずだ。

フォルクスワーゲン ゴルフ eTSI Acive
1.5リッターターボエンジンを搭載したベーシックグレード。価格は37,799,000円にDiscoverパッケージ(176,000円)とテクノロジーパッケージ(220,000円)のメーカーオプション付き

やっぱりゴルフはこうでなくちゃ!

 すでに私自身は、昨年7月にもドイツでゴルフ8.5を味見して好感触を掴んでいたけれど、日本仕様がどんな仕上がりになっているのかも確認したかったし、やはり乗り慣れた日本の道でその真価を味わいたいとも思っていた。そんな念願がついにかなって、私はこの日を迎えたのである。

 最初の試乗車は1.5eTSIというベーシックなグレード。それでも、乗り始めた瞬間に「ああ、そうそう。やっぱりゴルフはこうでなくちゃ」と口をついて出てしまうくらい、その乗り心地は快適だった。

 まずは、タイヤの路面への当たり方がとても柔らかいことに感動した。これは、試乗車が装着していた205/55R16という、比較的「厚み」のあるタイヤサイズも功を奏しているのだろうが、ネクセンのN'Blue Sという銘柄の特性も大きく関係しているように思えた。

 ネクセンは1956年に韓国で誕生したタイヤメーカーで、自動車用タイヤの生産では同国でもっとも長い歴史を有しているという。ちなみにヨーロッパには2010年に進出し、今ではドイツに研究所、そしてチェコに生産設備を有するほどの規模に成長している。ハンコックやクムホと並んで、今後、注目すべき韓国のタイヤメーカーとなりそうだ。

 それはともかく、ゴルフ8.5の乗り心地はすこぶる快適。路面からの細かい振動をしっとりと受けとめるいっぽうで、ボディーが傾くようなうねりに対しては芯の太さを見せつけ、フラットな姿勢をしっかりと守り続けてくれる。それは、長年にわたって私がゴルフに期待していた魅力がぎゅっと凝縮されたような乗り心地だった。

 ただし、新しい味付けも感じられた。

 操舵に対する反応はシャープで、コーナーを曲がるときに必要な舵角も明らかに減っている。この辺は小気味いいドライビングフィールを与えるポイントとして、多くのドライバーから歓迎されることだろう。

1,497ccの4気筒ターボエンジンは116PS(85kW)を5,000-6,000rpmで、220Nmを1,500-3,000rpmで発揮と、控えめなスペック

 マイルドハイブリッドが組み合わされた1.5リッター・ガソリンエンジンは、街中や高速道路を何気なく走っている範囲でいえば、あまり速さを感じさせないタイプ。ただし、速さが感じにくいだけで、実際の機敏さはなかなかのもの。なぜ、あまり速さが感じられないかというと、ほんの少しだけアクセルペダルを踏み込んでおだやかな加速をさせようとしても、エンジン回転数が「グイーン!」と急上昇したりすることはなく、モーターのチカラでそっと背中を押されるようにしてスピードを積み重ねていくからだ。

 とはいえ、アクセルペダルをフロアまで踏み込めば、ギアボックスが2段ほどシフトダウンしてエンジン回転数を4000rpm以上へと導き、グイグイと加速させることも可能。つまり、緩急自在な走りができるパワートレインなのである。細かいことを言えば、4000rpm以上まで回すと、エンジンからちょっとだけガサついた音が聞こえる点は残念。もっとも、ここまでの急加速が必要な状況は滅多にないだろうから、これは例外的な事象といっていいように思う。

最新のインフォテイメントシステム「MIB4」を採用したコックピット。テクノロジーパッケージによりヘッドアップディスプレイ、アラウンドビューカメラ"Area View"が装着されている