大谷 達也:自動車ライター

BEV化の潮流とフォルクスワーゲン グループ

 ヨーロッパでは、内燃エンジンを積んだ自動車の生産が終焉に向かっているように思える。

 もちろん、各メーカーの言い分はそれぞれで、電動化の条件についても様々な注釈がつけているけれど、カーボンニュートラルを実現するために「今後、電気自動車(BEV)が生産台数の大半を占める」ことを前提としている企業がすべてといっても過言ではないだろう。

 問題はそうなる時期がいつで、BEVの占める比率がどの程度になるかということだけれど、この辺はメーカーが扱うセグメント(クラス)やマーケット(販売国)、さらにはブランディングにも依存するもので、一概には言い切れないけれど、全体的な傾向としてBEV化を目指しているのは明らか。事実、早々と内燃エンジン車のラインナップ縮小を始めているブランドだってあるくらいだ。

 個人的に“全面BEV化”が絶対に正しいと確信しているわけではないけれど、そうした電動化の流れのなかで、先陣を切っているように思えたのがフォルクスワーゲン・グループだった。

 彼らにはディーゼルゲート(2015年に発覚したフォルクスワーゲン・グループによるディーゼル・エンジンの排ガス規制不正問題)という負い目があって、これがきっかけとなって急速に電動化に舵を切っていったという経緯がある。もちろん、不正問題は不正問題として決して許されることではないけれど、傍目から見ていても、彼らはこの異常事態に過剰に反応してしまい、冷静な判断が下せなくなったように感じていた。おかげで、不必要な改革まで手を染めていたことも少なからずあったように思う。

 自動車メーカーの保守本流として、一般ユーザーからもっとも信頼されていたブランドのひとつであるフォルクスワーゲンの方向性は、こうして大きく変化し始めたのである。

プラットフォームもアップデートした新・ティグアン

 いずれにせよ、フォルクスワーゲン・グループはいまも電動化を積極的に推し進めていて、「2033年から2035年の間にヨーロッパ市場向けの最後の内燃エンジン車を生産」するとしている。つまり、遠からずエンジンを積んだクルマの生産が終了するわけで、だとすればエンジン車のモデルチェンジなんてするわけがないだろうと勝手に決めつけていたというのが正直なところだった。

 しかし、そんな私の予想は見事に外れ、彼らは主力車種であるティグアンをフルモデルチェンジしたのである。「これにはフォルクスワーゲンとしての重大なメッセージが込められているのではないか?」 そう期待した私は、国際試乗会が開かれるフランス・ニースへと飛んだ。

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写真は左がR-Line、右がElegance

 前述のとおり、内燃エンジン車の終焉が迫っている関係もあって、フルモデルチェンジといっても「ちょっと大規模なマイナーチェンジ」くらいの内容に留まっている自動車メーカーが少なくないなか、ティグアンの進化は文字どおりフルモデルチェンジと呼ぶのにふさわしい内容だった。

 たとえば、プラットフォームは従来のMQBからMQB evoに進化。ロングホイールベース化に耐えられるメカニズムの改良を行うとともに、インフォテイメント・システムや先進運転支援システム(ADAS)の改良に必要なプラットフォームのエレクトロニクス部分にも手が加えられた。この結果、最大15インチの大型タッチディスプレイの搭載が可能になったほか、評判が芳しくなかったインフォテイメント系の操作ロジックも大幅に見直され、直観的に操作できる体系に生まれ変わっている。

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標準12.9インチ、オプションで15インチのディスプレイをセンターに備えるコクピット

 エクステリアデザインの変化も印象的だ。全体的にはいかにもティグアンらしいプロポーションを継承しながら、細部をよりていねいに仕上げることで上質さを高め、プレミアムカーといっても通用するクォリティ感を手に入れた。また、見ための変化だけでなくエアロダイナミクスにも最新の手法が採り入れられ、Cd(空気抵抗係数)が従来の0.33から0.28へと劇的に進化したことも注目される。