2021年11月に5代目が発表された『ランドローバー レンジローバー』に遅れること約半年。兄弟分の『ランドローバー レンジローバースポーツ』が2022年5月に発表され、日本でも5月25日に受注を開始していた。それから1年弱。ついに山口県は秋吉台にて、試乗のチャンスを得た、とオートグラフ編集部は大谷達也氏から連絡を受けた!のだけれど、ええと……
たしか「ランドローバー」はいまも、『レンジローバー』のほかに伝統の『ディフェンダー』と『ディスカバリー』があって、さらに『ランドローバー レンジローバー イヴォーク』に『ランドローバー レンジローバー ヴェラール』があるんでしたっけ?
大谷さん!いまランドローバーの車種はどうなっているんですか?
レンジローバースポーツの試乗記についてオートグラフの編集長に提案したら、「いま、ランドローバーがどうなっているのか、よくわかりません!」との返事が返ってきた。私は昨年6月に5代目となる新型レンジローバーの試乗記を寄稿しているので、これを担当した編集長にとってはなおさら理解しにくく、混迷の度合いを深めたようだ。
たしかに、いまのランドローバーの車種構成はわかりにくい。ラインナップのトップに君臨するラグジュアリーなレンジローバーから、もっともオフロード寄りのディフェンダーまで計7車種が用意されていて、価格帯は、いちばん廉価なレンジローバー・イヴォークの518万円からレンジローバーの1687万円まで1000万円以上の開きがある(いずれもエントリー価格)。
ところで、ランドローバーの車種構成をわかりにくくしている最大の理由は、レンジローバーがモデル名であると同時にブランド名ともなっている点にある。つまり、レンジローバー、レンジローバー・スポーツ、レンジローバー・ヴェラール、レンジローバー・イヴォークは、いずれもレンジローバーというサブブランドに含まれたモデルなのだ。これ以外のランドローバーはディスカバリー、ディスカバリー・スポーツ、ディフェンダーの3モデルだが、これもディスカバリー系とディフェンダー系の2系統と捉えると、だいぶすっきりしてくる。
もともとランドローバーはディフェンダー、ディスカバリー、レンジローバーの3モデル構成だった。ディフェンダーは、ランドローバー・ブランドの始祖(誕生当時は単にランドローバーと呼ばれていた)であると同時に、ラインナップ中、もっともシンプルな作りで、それだけにオフロード性能の高いモデル。その次に誕生したのがレンジローバーで、これはディフェンダーを高級に仕立て直したSUVだった。ディスカバリーは、シンプルにいえばディフェンダーとレンジローバーの中間で、ディフェンダーよりは装備が充実しているけれど、レンジローバーのように高級というよりはファミリー向けで、なんにでも幅広く使えるという位置づけだった。
ちなみに、3モデル構成だった時代のランドローバーのオフロード性能に優劣をつけるとすれば、ディフェンダーがもっとも高くてディスカバリーが2番目、そしてレンジローバーが3番目だった。現代のように電子デバイスが登場する前は、オフロード性能を左右するもっとも重要なファクターは車重だったからだ。もちろん、車重が軽いほうがオフロード性能の点では有利。この物理の法則は、基本的には現代にも生き続けているが、トラクションコントロールやスタビリティコントロールなどの進化により、その差はだいぶ縮まったというのが私の捉え方だ。
レンジローバーがわかりにくくなった理由
こうしたシンプルな車種構成を崩したのがレンジローバー・イヴォークだった。言い換えれば、イヴォークの誕生によってレンジローバーがサブブランド化したといっていい。その最大の特徴はデザイン性を徹底的に追求するとともに、従来のランドローバー車と比べてオンロード性能を重視した点にあった。
2011年に生産が始まったイヴォークは世界的に大成功を収める。これに自信をつけたランドローバーが「同じレンジローバーのサブブランドで、イヴォークよりもうひとまわり大きなモデルを作ろう」というコンセプトで誕生したのがレンジローバー・ヴェラールだといえる。
これらとは別に、レンジローバーとディスカバリーにはスポーツと呼ばれる別モデルが設定されている。どちらも、オンロードでのスポーティな走りに力点を置いているところがポイントだ。
なお、全ラインナップ中、エンジンを横置きしているのはレンジローバー・イヴォークとディスカバリー・スポーツのみ。レンジローバー・ヴェラールのプラットフォームは、同じグループであるジャガーのFペイスと共通。ディスカバリーとディフェンダーはD7Uを、そしてレンジローバーとレンジローバースポーツはMLA-Flexという新世代プラットフォームを、それぞれ共用している。
いよいよレンジローバースポーツ
これが3代目となるレンジローバースポーツは、初代のみ当時のディスカバリーと共通のセミモノコックボディ+ラダーフレームで構成されていたが、2代目以降は同時期のレンジローバーと同じプラットフォームを用いるようになり、ホイールベースも共通とされている。
では、レンジローバーとレンジローバースポーツの違いがなにかといえば、シャシーやデザインが少しずつスポーティになっているという点に尽きるだろう。
おかげで乗り心地はちょっとだけ硬めになったけれども、MLA-Flexという優れたプラットフォームのおかげで、不快なところは一切ない。レンジローバーにふさわしい「タイヤの当たりの柔らかさ」はそのまま受け継ぎながら、ボディの揺れがぐっと抑えられた引き締まった乗り心地で、ひとことでいえば長距離ドライブでも疲れにくいタイプだ。
でも、それ以上に印象的だったのが、ワインディングロードでの爽快な走り。MLA-Flexはタイヤの位置決めにあいまいなところがないため、ドライバーのステアリング操作がクルマの進行方向として正確に反映される。だから、丘陵地帯を縫うようにして走る秋吉台周辺のワインディングロードでも、狙いどおりのラインを意のままにトレースすることができた。
最新の直6ディーゼル
現時点でレンジローバースポーツのカタログモデルとしてラインナップされているのは、最高出力300psを発揮する直列6気筒のターボディーゼルエンジン(マイルドハイブリッド付き)だけだが、これはディーゼル・エンジン特有のキンキンとしたノイズを一切、発しないうえ、アクセルペダルを大きく踏み込めばV8エンジンもかくやといいたくなる「クォーッ!」という咆吼を響かせる。そのいっぽうで、普段は無音に近いのに、ストレート6らしい精緻なメカニズムの鼓動がそこはかとなく感じられて、実に心地よい。パワー感、レスポンスの鋭さを含めて、「最新のディーゼルエンジンはここまできたか!」と感心させられる完成度である。
いっぽう、内外装のデザインは兄貴分のレンジローバーによく似て極めて高品質かつセンスがいい。その控えめでいながら現代的(というか、むしろ未来的)なデザインは、イギリスの最先端ファッションにも通ずるもので、実に魅力的だ。
正直いって、レンジローバーよりも微妙にスポーティな印象が強いというだけで、「レンジローバーにあってレンジローバースポーツにないもの」はごく少ないように思える。それでいながらレンジローバースポーツのエントリー価格は1068万円で、レンジローバーよりも600万円以上も安い。そのコストパフォーマンスは驚くほど高いといっていいだろう。