1,030馬力を解放する!

 例によって1周目から信じられないようなハイペースで走るテストドライバーを追いかけていると、ほとんどリスクを冒していない状態でもタイヤが滑り始める感覚が認められた。つまり、“壁”がどこにあるのかが見えたのだ。

 こうなれば、話は早い。どこまでコーナリングスピードを上げると前輪がアウトに逃げ出すのか、どれほど早いタイミングでスロットルペダルを踏み込むと後輪が滑り始めるのかについての経験を積み重ねていき、限界がどこにあるのかを常に意識しながらドライブできるようにできるからだ。

 おかげで、これまでにないレベルでフィオラノ・サーキットを攻めることができた。

 たとえば、バックストレートのなかほどにあるキンク(折れ曲がったカーブのこと)は、超高速域で通過するため、フィオラノ・サーキットでももっとも強い不安を覚えるポイントだが、今回はここでもタイヤがグリップしている様子をはっきりと捉えながら通過できた。これには、250km/hで530kgというレーシングカー並みのダウンフォースを発生するSF90XXのエアロダイナミクスもまた、大きく貢献しているはずだ。

 システム出力1030psのパワーを思い切って解放できたのも、タイヤの限界が掴めていたからこそ、といえる。最高出力797psを発生するV8ツインターボエンジンのパワーだけでも十分以上だが、ハイブリッドを司るeマネッティーノでクォリファイモードを選び、ストレートでスロットルペダルを全開にすると、まるで何かに火が点いたかのような勢いでSF90XXは加速し始める。とりわけ5000rpm以上で見せる暴力的なまでの加速感は、これまでに操ったどんなスーパースポーツカーでも体験できなかったものだ。

フェラーリ・ライフの変化に期待

 ところで、SF90XXはXXの名が与えられていながら、XXモデルだけが参加できるXXプログラムというサーキット走行会にエントリーする資格がない。これは、SF90XXが公道走行も可能なことから採られた措置だが、今回の試乗会では特別に、私たちの走行データをコンピュータースクリーンに映し出し、どう走るとより効率化かをアドバイスしてくれるドライビングクリニックや、スポルティバ・ジェスティオーネ(つまりフェラーリF1チーム)の施設内にあるドライビングシミュレーターを試す機会が与えられた。つまり、ドライビングスキルを磨くヒントを教えてもらったのだ。

 これは想像だが、おそらく“正規”のXXプログラムに参加するドライバーは、この種のサポートを受けることができるのだろう。

 いっぽうで、SF90XXのオーナーにこの種のサポートが事前に用意されているわけではないけれど、“ピロータ・フェラーリ”という名のドライビングレッスンが各地で開催されているほか、上述したような個別のサポートにしても、条件次第ではある程度まで対応してくれそうな気がする。つまり、SF90XXのオーナーにも、フェラーリのサポートでドライビング・テクニックを磨く道は開かれていることになる。

 なぜ、私がこのようなことを指摘するかといえば、最近のフェラーリからは顧客サービスに対する前向きな姿勢が強く感じられるからだ。

 彼らは顧客を“フェラーリ・ファミリー”の一員として受け入れ、その声に積極的に耳を傾けようとしている。そうした姿勢は、これまで雲の上の存在のように思えたフェラーリとは、ずいぶん異なるものだ。

 きっと、限界が掴みやすいSF90XXのユーザー・フレンドリーなキャラクターも、フェラーリのそうした姿勢から生み出されたものなのだろう。正直、その価格は私にとってまったくフレンドリーではないけれど、フェラーリが顧客の嗜好に寄り添うクルマ作りに向かっていることを、私は大いに歓迎したい。


大谷達也氏による『SF90XX ストラダーレ』発表時の開発責任者へのインタビューは『The Luxe Car TV』にて