
ポロ競技場で生まれ、アール・デコの芸術潮流を体現するウォッチアイコン「レベルソ」。18Kピンクゴールドとミラネーゼブレスレットの組み合わせが、90余年の歴史を継承しながらも現代的なエレガンスを醸し出している。
ミラネーゼブレスレットが紡ぐ歴史と革新
1931年、「ウォッチメーカー中のウォッチメーカー」として知られるジャガー・ルクルトが誕生させたレベルソは、単なる時計の枠を超え、ファッションの歴史にも深く刻まれる存在となった。その起源はインドでポロに興じていたイギリス軍将校たちの実用的な要請にある。競技中の衝撃から文字盤を守れる時計の開発を求められたジャガー・ルクルトは、機能性とデザイン性を高次元で融合させたレベルソを生み出した。
この革新的なモデルは、たちまちファッショナブルな「スポーツ・ジェントルマン」の象徴へと昇華したのである。

誕生から90年余り、レベルソのアイコニックな反転式ケース(歴史的特許CH159982)と直線的で均整のとれたフォルムは、アール・デコ様式の真髄として、時代を超えてスタイルに敏感な人々を魅了し続けている。特に幾何学的なフォルムと簡潔さは、ファッションの流行が目まぐるしく変わる中にあっても、むしろ存在価値を高め、普遍的なエレガンスの象徴として揺るぎない地位を確立しているのだ。
さて、2025年のウォッチ&ワンダーズにてジャガー・ルクルトが発表した「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」は、タイムレスなレベルソの魅力をさらに引き立てる18Kピンクゴールド製ミラネーゼリンクブレスレットを備えたモデルである。13世紀のミラノで鎖帷子(くさりかたびら)として誕生した編み込み技法は、ルネサンス期の金細工職人たちによって宝飾品として洗練され、長らくイタリアの秘伝とされてきた。1920年代になるとドイツのジュエラーがこの技術を習得し、世界的な流行の火付け役となり、さらに時代が下った1970年代に時計ブレスレットとして再び脚光を浴びたのだ。
新作のミラネーゼブレスレットには、16メートル以上のピンクゴールドの糸が絡み合い、ペッツァと呼ばれる布のような構造を形成している。最大限の柔軟性を確保するため、職人たちは中断することなく作業を行い、一つひとつのリンクを手作業ではんだ付けする。こうして生み出される滑らかで柔軟な質感は、まるで第二の肌のようにしなやかに手首に馴染み、コンテンポラリーでありながらもヴィンテージの風合いを併せ持つ逸品となっている。

1931年の初代モデルを彷彿とさせる植字インデックスと、複数回のプレス加工による繊細なグレイン仕上げを施したゴールドカラーのダイヤルは、ケースとブレスレットのポリッシュ仕上げの輝きと美しいコントラストを成している。細長いインデックスにファセットが施された輪郭は視覚的な奥行きを生み出し、ドーフィン針のフォルムと呼応。また、6時位置に配置された円形のスモールセコンドは、全体の直線的なデザインに柔らかな変化をもたらし、絶妙なバランスを実現している。
厚さわずか7.56mmのスリムなケースに収められているのは、ジャガー・ルクルトが誇る手巻きキャリバー822である。42時間のパワーリザーブを備え、設計から製造、組み立てに至るまですべてを自社で行うマニュファクチュールとしての真骨頂を示している。1833年の創業以来、時計製造の聖地ともいえるスイス・ジュウ渓谷の静謐な環境からインスピレーションを得てきたジャガー・ルクルトは、1,400種以上のムーブメントを開発し、430以上もの特許を取得。その卓越した技術力と美意識は、このレベルソにも余すところなく発揮されている。
「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」が放つ魅力の最大の特徴は、あらゆる二項対立―スポーティかエレガントか、現代的かクラシックか、男性的か女性的か―を超えた複雑な多面性にある。この絶妙なバランス感覚こそが、ファッションの世界においても稀有な存在感を放ち、流行に左右されない普遍的な魅力を生み出すのだろう。さらに、ケースを裏返せば現れる余白には、エングレービングやラッカー仕上げの装飾を施すことができ、オーナーの個性を表現するキャンバスともなる。これもまた、ファッショニスタからの羨望を集める重要な特徴なのである。