GMT機能がメインのパイロットウォッチ
クリント・イーストウッド、ダスティン・ホフマン、石原裕次郎……。多くのスーパースターが愛用してきたことでも知られるロレックスの『GMTマスター』。スクリーンでもよく見られるモデルで、かつての007シリーズ、『イージーライダー』のピーター・フォンダ、近いところでは『オーシャンズ13』でブラッド・ピットが着用している。一般的にも、もっとも人気のあるモデルのひとつであるのは間違いない。
そんな『GMTマスター』は、ロレックスの数あるラインナップの中でも唯一のパイロットウォッチでもある。ネーミングからわかるように、機能的に第二時間帯を表示するGMT機能が搭載されている。なので、他のパイロットウォッチとは趣が異なる。多くのパイロットウォッチのはじまりが軍用であるのに対し、『GMTマスター』は民間旅客機のパイロット用に開発されたものだからだ。
このモデルは、ジェット旅客機の黎明期である1955年に、パン・アメリカン航空機のパイロットたちの要望を受けて製造製作された。第2次世界大戦後の1950年代は、航空技術が発達し、ジェット機が世界中を飛び回るようになった時代。世界各地での正確な時刻の把握が重要視されはじめており、パイロットから異なる2ふたつのタイムゾーンが確認できる時計を求める声が上がりはじめたのだ。
そんななか、当時米国のフラッグキャリアであったパン・アメリカン航空がロレックスに、出発地と目的地、2つの時間を一度に確認できる腕時計の製作を依頼したのである。『GMTマスター』は、24時間で一周するGMT針に両方向回転ベゼルを備えており、一目で2カ所つの時刻時間を把握できるものだった。後にもちろん、この仕様に大満足したパン・アメリカン航空は、『GMTマスター』はをパン・アメリカン航空同社の公式時計として採用されている。同社のパイロットたちはGMT マスターを着用してロレックスの広告に登場し、このモデルは航空の世界のシンボルとなっていく。
2つのシリーズが存在する『GMTマスター』
1955年にはじまった『GMTマスター』の歴史は、82年に、時針を分針とGMT針から独立して調整できる新しいムーブメントを備えた最大3カ所のタイムゾーンを把握できる『GMTマスターⅡ』に継承され、99年に生産終了となっている。現行の“GMTマスター”は『GMTマスターⅡ』である。その歴史を少し振り返りたい。
現在、55年から2000年まで製造製作されたモデルは、『GMTマスターⅠ』として親しまれている。その1stモデルだが、これは昼夜を一目で識別するためにベゼルを赤と青に色分けしたもので、とてもカラフル。いい意味で個性的だった。このカラーリングは、ペプシコーラのロゴを想起させることから、愛好家の間では「ペプシ」と呼ばれている。
他にもこのコレクションには愛称がついたモデルがいくつか存在する。たとえば、ベゼルが赤と黒のモデルはコカ・コーラをイメージさせることから「コーク」。また茶色と金色のツートーンモデルは「ルートビア」と呼ばれている。これはビールのような炭酸飲料水で、こちらも缶の色合いが似てることから付けられたようだ。これらのペットネームは、ユーザーから親しみを込めてそう呼ばれておりいるのだが、ロレックスの正式名称ではない、ということである。
1stモデルに話を戻すと、赤青ベゼルにミラーダイヤルを備えたモデルもあり組み合わせ、後のモデルにはついているリューズガードがないのが大きな特徴である。ベゼルは、当初、合成樹脂のベークライト(プレキシガラス)仕様だったため耐久性に問題があったが、42年後にはアルミウム性となったに仕様変更されている。
59年に発表発売された2ndモデルになると、リューズガードが備えられており、GMT針先端の三角形は現行モデル同様に大型化されている。そして、ケース経がも38㎜から40㎜にサイズアップしている。この時点で、現在まで続く『GMTマスター』シリーズの原型が出来上がったといってもいいだろう。
2ndモデルは80年まで続くロングセラーとなっており、年式よって仕様が違うのが特徴でもある。ムーブメントは初期が5振動/秒のCal.1566、65年以降は5.5振動/秒のCal.1575とわずかに機能アップしている。
機能的飛躍が見られる3rdモデル
3rdモデルになってもデザイン的にほぼ変わらないが、機能的には大幅な飛躍が見られる。ムーブメントを日付の早送り機能がついた新型Cal.3075に変更。8振動/秒の高振動になっている。また、防水性能が50mから100mに引き上げられている。このモデルにはマットとグロッシーの2つの文字盤が存在する。
『GMTマスターⅠ』もこの世代になると、同時期に『GMTマスターⅡ』が発表発売される。この2つのシリーズはデザイン的に大きな違いはない。とくに後期の『GMTマスターⅠ』と『GMTマスターⅡ』を見分けるのは難しいだろう。
2つのシリーズの違いは、『GMTマスターⅡ』が時針の独立調整機能を持ったモデルだということ。つまり、『GMTマスターⅡ』は時針を単独で動かすことができ、『GMTマスターⅠ』は時針と分針が連動して動くため、それができない。『GMTマスターⅡ』は、この機能によってローカルタイムを単独で1時間ごとに設定することができる。さらにGMT針と分針が独立して調整できることで、24時間回転ベゼルとの組み合わせで3つ目の時間帯の表示も可能にしたのである。
『GMTマスターⅠ』以上の機能を持った『GMTマスターⅡ』は、82年に赤と黒のベゼルで登場。ムーブメントは8振動/秒の自動巻きCal.3085を搭載。自動巻きを搭載してケースが若干厚いためか、「コーク」以外にも「ファットレディ」という愛称で呼ばれることもある。
『GMTマスターⅠ』は2000年まで製造され、現行モデルは『GMTマスターⅡ』のみとなった。2023年はイエローロレゾール(コンビ)と、18Kゴールドケースモデルに、グレー&ブラックのセラミック製のツートーンベゼルのものがラインナップされたが、24年は、そのベゼルの配色を踏襲したステンレススティールモデルが登場。また、それに伴いベゼルの目盛りのカラーはがゴールドからシルバー色に変更している。視認性も従来通り抜群で、さすがに最高峰の実用腕時計といえるものとなっている。