大谷 達也:自動車ライター

本物のクラシック フェラーリとは?
まだ日本がバブル経済に沸いていたころ、自動車マニアの間で「この間●●さんが買ったフェラーリのクラシックカー、どうやらニセモノだったらしいよ」なんて噂話がときたま流れることがあった。
フェラーリのクラシックカーといえばどれも高価だが、そのなかでもとりわけ希少なモデルには数億円とも数十億円ともいわれるほどの高値がつけられる。そこで一部の悪徳業者は、そんな特別なフェラーリを捏造。それを市場に流して不当な利益を得ていたのだ。
こうした事態を防ぐためにフェラーリがとった行動は、実に徹底したものだった。
1台1台のクラシック・フェラーリがホンモノであるかどうかを見分けるシステムを社内に構築すると、ホンモノと判断されたフェラーリには認定証を発行。

ここで認められたフェラーリについては、フェラーリ本社でメンテナンスを行い、オーナーが安心してクラシック・フェラーリを楽しめる環境を整えたのだ。いわばフェラーリに「永遠の命」を与えることになるこのシステムは「フェラーリ・クラシケ」と呼ばれ、新車で発売されてから20年以上経過した“跳ね馬”が対象とされている。

ここまで特別なフェラーリでなくとも、中古車として売買されるフェラーリのなかに「怪しい個体」が紛れ込んでいたとしても不思議ではない。走行距離を示すオドメーターがまだ機械式だった当時は、メーターを戻して走行距離を短く見せかけるインチキができなかったとは言い切れないし、不当な改造を受けたため、本来の性能を発揮できなかったり寿命が短くなってしまうケースもあっただろう。
こうした事態を防ぎ、フェラーリの中古車を安心して購入できるようにするためにマラネロが立ち上げたのが、フェラーリ・アプルーブドと呼ばれるシステムである。

フェラーリの認定中古車は新車さながらの検査を受ける
これもクラシケと同じように対象となる個体を徹底的に調査して「ホンモノのフェラーリ」であるかどうか確認することから始まるのだが、その検査項目は最大で202を数えるほど厳格なもの。私は先日、全世界のフェラーリ正規ディーラーで働くメカニックたちをトレーニングするために作られたフェラーリ・アカデミーと呼ばれる施設を訪問。そこでインストラクターが実際に車両を検査する様子を見学したが、その入念な作業は新車完成時に行われる品質検査と変わらないように思えたほどだった。

しかも、外装や内装に細かなキズがあればそれらも修正されるほか、検査終了時にはテスト走行も行うという。こうした手順も、新車完成時に行われる品質検査となにひとつ変わらないように思えた。

こうした検査に活用されているのが、フェラーリが構築した膨大なデータベースである。そこには、新車で販売したフェラーリのスペックなどが記録されているだけでなく、販売後に実施された点検結果なども登録。もしも前回の検査結果との矛盾(たとえば走行距離が減っていた、など)が見つかれば、即座にフェラーリ・アプルーブドの枠組みから外され、フェラーリの認定中古車としては販売されなくなる措置がとられる。
アプルーブドからクラシケへとつなぐサポート体制
したがって、フェラーリ・アプルーブドもまた、ユーザーがフェラーリの中古車を安心して購入できるようにサポートするためのシステムといえるのだが、認定中古車には手厚い保証制度が設けられているのも、フェラーリ・アプルーブドの特徴といえる。
たとえば、フェラーリ正規ディーラーを通して販売されたすべての新車には3年間のメーカー保証が無料で付帯しているが、ワランティエクステンションという名の延長制度も用意されており、こちらは有償ながら最長8年目まで(一部のモデルは7年目まで)保証が適用されるという。
さらには7年間のメンテナンスプログラムも無償で付帯されており、こちらには定期点検などが含まれている。
このうちメンテナンスプログラムについては、フェラーリ認定中古車として購入したユーザーにも引き継がれるほか、万一主要なコンポーネンツなどにトラブルが発生した場合には、その工賃や部品代金などがカバーされる保証も受けられるという(一部条件あり)。
しかも、7年間のメンテナンスプログラムが終了してからも、8年目から16年目までのメンテナンスをサポートするパワー16などのプログラムを用意。最終的にはフェラーリ・クラシケに結びつけることにより、まさに万全の体制を整えているのだ。