アマルフィが持つもの

 アマルフィは、これらの条件をすべて備えていた。

 クルマを発進させようと思ってアクセルペダルを踏み込めば、イヤなショックも引っかかりもなく、流れるように走り出す。そこからアクセルペダルをさらに踏み込めば、踏み込み量に応じて素直に速度を上げていく。

 こんなとき、旧世代のローマだと、アクセルペダルを踏み込んだ直後のレスポンスはいいものの、そのまま踏み続けると、ひと呼吸置いてからロケットの2段目が発射したかのように加速が急激に立ち上がる傾向があった。しかし、アマルフィではこれが完全になくなり、アクセルペダルの踏み込み量と加速感が常に正比例してくれる。したがって扱い易く、疲れにくい。日常遣いにも長距離ドライブにもぴったりのキャラクターである。

 ステアリングも同様。切り始めにやや敏感な領域があるようにも思えるが、30分も走ればそんなことは意識から吹き飛んでしまうくらい、症状としては軽微。あとは、高速道路でもワインディングロードでも、意のままに走り続けられる。イヤな緊張を強いられることがないという点では、個人的にフェラーリ史上最高の1台といってもいいように思う。

 でも、最大の驚きはブレーキだ。

技術を体感できる

 アマルフィにはABS evoとブレーキ・バイ・ワイヤというふたつの新機軸をブレーキに採用している。

 ABS evoは、4輪のブレーキ圧制御に6Dセンサーを用い、滑りやすい路面コンディションでもブレーキ能力を最大限に引き出すシステム。従来のABSは一般的に3Dセンサーが用いられてきた。これは上下、左右、前後という直線的な加速度のみを感知するセンサーだが、たとえばクルマが傾いて左右輪の接地性に差が生まれても、それをあらかじめ知ることはできない。したがって4輪のブレーキ制御は平均的になる傾向があって、タイヤごとに路面状況が異なるときにはブレーキ性能をフルに引き出せない恐れが出てくる。

 これに対して6Dセンサーは、上下、左右、前後の直線的な3軸にくわえ、ロール、ピッチ、ヨーといってクルマが回転する動きの加速度も検出ができるため、たとえばロールやピッチが起きて1輪ごとの接地状態に差が生じたときでも、それらに的確に反応してブレーキ制御を行えるのだ。滑りやすい路面での制動力が高まるのは当然のことだろう。

 ABS evoが物理的なブレーキ性能を改善するものだといえば、ブレーキ・バイ・ワイヤはドライバーが得るブレーキの印象に大きな影響を与えるシステムだ。

 通常のブレーキシステムは、ブレーキペダルから直接マスターシリンダーに圧力をくわえ、ここで得られた油圧を4輪に配分して制動力を得る。つまり、ブレーキペダルと油圧回路は機械的に直結していることになる。皆さんが自動車学校で習った「フェード現象」ないし「ベイパーロック現象」と呼ばれるものは、ブレーキの多用によって油圧系の温度が上昇。これによって油圧経路内に気泡が生じ、このためブレーキペダルを踏み込んでも期待したほど制動力が高まらない現象を指している。

 しかし、ブレーキ・バイ・ワイヤであれば、ブレーキペダルが油圧回路から切り離されているので、たとえ油圧経路に気泡が生じてもペダルの感触が変化することはない。しかも、ペダル踏み込み量と油圧の関係をソフトウェアなどで任意に設定できるから、ドライバーにとって扱いやすい特性にするのも簡単というメリットを備えているのだ。

 そのことは、アマルフィに乗ればたちどころにして体感できる。

 この種のスーパースポーツカーでは、強大な制動力を可能とするために、踏み始めのレスポンスが過敏なケースが少なからずあるが、アマルフィにはそれがまったくない。したがってブレーキを弱く効かせたいときはそっと踏めばいいし、強力な制動力が欲しければガツンと踏めばいい。いずれにしてもガッシリとした踏みごたえとともに、期待どおりの制動力が得られることだろう。

 このように、アマルフィは走る、曲がる、停まるのすべてが、ドライバーの操作に対して極めて忠実で、まさに意のままに操れる。しかも、乗り心地はローマよりもさらに快適で疲れにくい。ちょっとした街乗りからロングクルージング、さらにはワインディングロードに至るまで、クルマがまるで自分の身体の一部になったかのような扱い易さと一体感を味わえるはずだ。

 しかも、エンジン音も確実にローマよりも小さくなった。それでいながら高音主体の抜けのいいサウンドはフェラーリに相応しいもので、どこまでも走り続けたくなる。おまけにエクステリアデザインは優雅で美しく、十分なスペースが確保されたインテリアは最上級の素材で覆われているとなれば、私ならずともこのクルマが欲しくなるはず。

 ただし、庶民にはまったく手が届かないほど高価なのだから、ああ、フェラーリはやはり罪作りな存在である。