洗練された直6PHEVの大パワー

 E53に搭載されているのは、メルセデス・ベンツが誇る排気量3.0リッターの直列6気筒エンジン。これは巷で「ストレート6」と呼ばれる形式で、ピストンが縦一列に6つ並んでいることからエンジンが発する振動の一部をみずから打ち消す効果を備えており、そのスムーズさで多くのファンを魅了してきた。

 このエンジンの最高出力と最大トルクは449ps/560Nmで、単体でも優れたパフォーマンスを誇るが、ここにプラグインハイブリッド・システムを組み合わせることにより、パワートレイン全体で585ps/750Nmを発揮する。本国発表のデータによれば、その0-100km/h加速タイムは4.1秒で、AMGダイナミック・プラスというパッケージオプションを装着するとこのタイムが3.9秒にまで短縮されるというモンスターモデルである。

 ところが、市街地を走り始めると、そんな高性能がウソのように滑らかな乗り味を示してくれるのだ。もちろん、標準的なメルセデスベンツのEクラスに比べれば、その足回りからは「芯の硬さ」というべきものが伝わってくるが、そこにいたるまでにソフトな領域が残されているため、路面から「ゴツゴツ」といういやなショックが伝わってくることは決して多くない。基本的に快適な乗り心地と評していいだろう。

 それでいながら、ミシュラン・パイロットスポーツ4Sというハイパフォーマンスタイヤを履いていることもあり、コーナリング性能はめっぽう高い。もはや、公道でその限界を引き出すのは不可能に近いといっていいくらいだ。

 パワートレインもまた、高性能と洗練さという、相反するふたつの要素を感じさせる仕上がりだった。

 モデル名にも表れているとおり、現行型E53はPHEV、すなわちプラグインハイブリッド車であり、車載のバッテリーを外部電源で充電することにより、エンジンを始動させることなく、まるでEVのように走行できる。この状況では、当然のことながらエンジンのノイスや振動は感じられず、極めて静かでスムーズな走りが楽しめる。ちなみにバッテリーをフルに充電すると97kmのEV走行が可能という(ステーションワゴンの場合。セダンは101km)。

 そんな静寂な走りが可能ないっぽうで、エンジンがかかれば爆発的ともいえる動力性能を披露する。しかも、必要とあらば163ps/480Nmを発揮するモーターが加勢するため、どんなエンジン回転域、どんな車速域からでも流れるような加速感を生み出してくれる。そういった走りを楽しんでいるときに、エンジンから無粋なバイブレーションが伝わってこないのも新世代の高性能パワートレインらしいところ。本来、ストレート6は必ずしもデッドスムーズなわけではなく、固有のビート感がその魅力の一部でもあるので、これが感じられない点は残念ともいえるが、まあ、それは望み過ぎというものかもしれない。

 「ワン・マン、ワン・エンジン」でなくとも、高性能と快適性という面で新たな価値を打ち立てたメルセデスAMG。しかも、価格は「ワン・マン、ワン・エンジン」のメルセデスAMGより割安とあって、一説には「かつての10倍」にまで販売台数は伸びたとされる。それでいてブランドイメージが損なわれた気配は見当たらないので、この戦略は成功だったと見ていいだろう。