文=吉村栄一
この『スターダスト』という映画に関しては最初にデヴィッド・ボウイを主人公にした映画が企画されていると聞いたとき、ちょっと怖かった。誰がボウイを演じるのか、そしてどういう物語になるのか。
もうすぐ死去5年となるデヴィッド・ボウイは、その実在自体がどんなフィクションよりも華麗でドラマティックなロック・スターであり、誰がどう描こうと本物を超える物語にはならないのではないか。
実際、これまでいくつものボウイを主人公とした映画は企画されてきたが、ボウイ側の徹底した非協力もあり頓挫してきた。
やがてこの『スターダスト』という映画にまつわる噂もちょっとずつ出回り、同時にボウイを演じる主役も明らかになった。
これらに関する世界中のボウイ・ファンのSNS上での反応は微妙なものだった。
それは、まず第一に主演俳優であるジョニー・フリンがボウイに似ていないのではないかというものと、物語が描くのはボウイがスターとなる直前の時期だということ。
つまり、あまりボウイには見えない俳優を主役とした、華やかならざる地味な時代を描く映画だということでもある。
やがてボウイの権利管理団体から、この映画に対してもボウイ側は一切の協力をせず、ボウイの楽曲の使用も許可しないという発表もされた。これは映画への期待を決定的に打ち砕くものだった。ボウイの曲が一切使用されないボウイの映画?
多くのボウイ・ファンは映画への関心をこの時点で失ったかもしれないが、ぼくは逆にこのことで映画が楽しみになってきた。ボウイが主人公なのに、ボウイの曲が使われないボウイ映画という不可思議な作品。中庸な伝記映画には絶対にならないはずだ。