稽古中に弟子を指導する伊勢ヶ濱親方(写真:共同通信社)
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 大相撲春場所(3月場所)の番付発表が終わり、大阪の土俵に熱気が集まるはずのこの時期。力士たちが3月8日の初日を前に最後の調整に汗を流す喧騒の裏で、角界の屋台骨を揺るがす戦慄のニュースが列島を駆け巡った。

 日本相撲協会屈指の大所帯であり、数多くの関取を擁する伊勢ヶ濱部屋の師匠・伊勢ヶ濱親方(元横綱・照ノ富士)が、弟子の幕内・伯乃富士に対して暴力を振るい、協会から事情聴取を受けていたことが発覚したのである。

「暴力」で揺れた宮城野部屋を“吸収”した伊勢ヶ濱部屋なのに…

 師匠自らが弟子に手を上げる。大相撲の長い歴史において、師弟関係は「擬制的な親子」として神聖視されてきたが、その絆を自ら断ち切る暴挙は、現代社会において到底看過できるものではない。

 ましてや、その“主犯”が「横綱」という頂点を極め、膝の重傷で序二段まで陥落しながらも、不屈の闘志で奇跡の復活劇を遂げ、優勝10回を数えた「不屈の象徴」照ノ富士であるという事実はファンの失望を通り越し、相撲界に巣食う「暴力の病理」がいかに根深いかを、あらためて世に知らしめることとなった。

「3月場所が始まろうとする最中で、誠にショッキングな出来事。社会的に如何なる事情があろうとも、人様に手を上げるという行為は許されない」。ある相撲関係者が吐き出したこの嘆き節こそ今、この業界に突きつけられた冷徹な現実である。

 今回の暴力事件を単なる師匠と弟子の「感情的なすれ違い」として、片付けるわけにはいかない。この事案の背後には角界を揺るがし続けてきた「組織運営の歪み」と、そこから生じた力士たちの複雑な心理状態が、どす黒い影を落としているからだ。

 被害者である伯乃富士は、かつて元横綱・白鵬氏(元宮城野親方)が師匠を務めた旧宮城野部屋の希望の星だった。

 周知の通り、宮城野部屋は2024年4月、所属力士の北青鵬による悪質な暴力行為を巡り、当時の師匠であった白鵬氏が「監督責任の欠如」を厳しく問われ、部屋が閉鎖。所属力士全員が伊勢ヶ濱部屋へ「無期限の転籍」となる異常事態を経て、今日に至っている。