大相撲初場所で2場所連続優勝を果たし、日本相撲協会の八角理事長(右)から賜杯を受け取る安青錦。新大関での優勝は史上9人目の快挙となった=代表撮影(写真:共同通信社)
土俵上を中心に東京・両国国技館の館内には、異様な緊張感と熱気が漂っていた。1月25日に行われた大相撲初場所の千秋楽。新大関安青錦は本割で琴桜との大関対決を制し、3敗で並んだ平幕熱海富士との優勝決定戦に臨んだ。
安青錦が土俵中央に進み出ると、ざわめきは一瞬で静まり返る。立ち合いの直前、わずかに視線を落としたその所作には、21歳とは思えぬ落ち着きと覚悟がにじんでいた。はたきでも運でもない。真正面から踏み込み、迷いなく前に出る。相手の圧力に屈しそうになったもののがっちりと下手を取り、持ち前の低い体勢を維持。強引に押し切られそうになりながらも下半身の強さを生かし、最後は土俵際の鮮やかな首投げで仕留めた。勝負は一瞬だったが、そこに偶然の余地はなかった。
大相撲初場所千秋楽の優勝決定戦で平幕熱海富士(右)を首投げで破り、2場所連続優勝を果たした大関安青錦(写真:共同通信社)
21歳にして円熟味
優勝決定戦を制し、新大関での初優勝――。それは単なる賜杯獲得ではない。新関脇での優勝に続く2場所連続V。しかも新大関での優勝は、あの双葉山以来89年ぶりだ。新大関の賜杯獲得も2006年夏場所の白鵬以来とされる歴史的快挙であり、大相撲の時間軸そのものを歪める出来事だった。
通常、大関昇進は「完成への入り口」にすぎない。力を測られ、試され、壁に跳ね返されるのが通例だ。だが安青錦は、その“助走期間”を一気に飛び越えた。新大関でいきなり結果を出し、番付の重みを自らの力でねじ伏せてみせたのである。
2場所連続優勝という事実は、来場所に「綱取り」という現実的な課題を突きつける。しかもそれは、気配や期待といった曖昧なものではない。数字と内容が揃った、極めて具体的な綱取りロードだ。スピード出世という言葉すら、生ぬるく聞こえる。千秋楽の土俵は、すでに次の時代の入り口だった。
「それにしても凄い力士が出てきた」――。千秋楽の大相撲中継でNHK解説者の元尾車親方・琴風浩一氏がこのように思わず漏らした一言は会場の空気を代弁していた。単なる賛辞ではない。長年、力士の浮沈を見続けてきた識者が、評価の枠組みそのものを更新せざるを得なかった瞬間だった。

