12月27日、アラン・ピカソ(左)を圧倒した井上尚弥=リヤド(写真:ゲッティ=共同)
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 大方の予想通り――という結果ではなかったかもしれない。しかしながらモンスターは無敗のチャレンジャーを終始圧倒し退けた。

 27日にサウジアラビア・リヤドで開催されたビッグイベント「THE RING V:ナイト・オブ・ザ・サムライ」。そのメインイベントで、WBA・WBC・IBF・WBO世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)が、WBC同級2位の挑戦者アラン・ピカソ(メキシコ)に3-0(122-108、119-109、117-111)で判定勝ち。

 メキシカンボクサーらしい相手の粘りにやや手を焼きKO勝利とはならず、自身初の2戦連続判定決着となったものの、試合内容は完勝だった。これで世界戦27連勝。ジョー・ルイス、フロイド・メイウェザーを抜き、歴代単独トップに立った事実は、もはや「世界王者」という枠を超え、ボクシング史の文脈で語られる領域に達している。

既定路線なら“次”は5月の中谷潤人とのドリームマッチだが

 試合後、井上は自らの出来を「良くなかった」と振り返り、疲労感もにじませた。その言葉通り、中東の地で行われたタイトルマッチは“消耗戦”でもあった。長距離移動と時差も考慮しながら、年間4試合を戦い終えた32歳の肉体は確実に次の局面を迎えつつある。

 世紀の番狂わせこそ起きなかったとはいえ、この試合の本質は勝敗そのものよりも「その先」にある。試合が終わった瞬間から、世界の関心は一斉に次の問いへと移行する。――ナオヤ・イノウエは、次にどこへ向かうのか。

 当初、その答えは比較的明確だった。2026年5月、東京ドーム。スーパーバンタム級に階級を上げたばかりの前WBC&IBF世界バンタム級統一王者・中谷潤人(M.T)を迎え撃つ、日本人同士の「ドリームマッチ」の実現が計画進行中というストーリーラインである。競技的価値、国内的熱狂、抜群の話題性。すべてが揃った一戦として、水面下では「既定路線」と見る声が支配的だった。