あるボクシング関係者は、こう語る。

「中谷は、今すぐ“消費”されるような選手じゃない。井上も同じだ。だったら、両者の価値を最大化する順番を考えるのが、興行としても合理的だ」

井上尚弥の「フェザー級転向」が取り沙汰される背景

 ここで急浮上してきたのが、井上のフェザー級転向、そして5階級制覇というプランである。これはタイトルマッチ前日26日の計量時に井上本人、所属の大橋ジム・大橋秀行会長が報道陣に打ち明けたことから、急きょ明るみに出た格好だ。

 フェザー級戦線には絶対的な支配者がいるわけではなく、勢力図は流動的だ。しかも「5階級制覇」という響きは、日本人同士のドリームマッチ以上に世界的なニーズとして“説得力”を持つ。世界市場で圧倒的な説得力を持つ「トップランク」社や井上が所属する大橋ジムにとっても、グローバル興行としてはこちらの方が魅力的に映る点は否定できない。

 しかも「トップランク」社が井上、そして中谷とも契約を結ぶ、ボクシング界を代表するプロモーション会社であることを考えれば「美味しい選択」をチョイスする流れは容易に想像がつく。

 何も中谷戦が「悪いカード」なのではない。問題は「今やる必然性」が相対的に薄れつつある点にある。中谷はスーパーバンタム級で体を作り、経験を積む時間が必要であり、井上もまた次の階級で新たな挑戦を選ぶ権利を手にしている。

 さらに言えば、日本ボクシング界全体の構造も変わりつつある。PFP級の日本人ボクサーが複数存在する今、単なる井上と中谷の“潰し合い”は最適解ではない。それぞれが世界で価値を示し、その先で交差する――。そうしたシナリオが多くのボクシングファンに支持されつつあるのも、SNS上の反応と照らし合わせれば事実のようだ。