岸田光哉氏が新社長に就任した時の記者会見。左が永守重信氏(写真:共同通信社)
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 テレビ東京の朝の経済ニュース番組「Newsモーニングサテライト」の「モーサテ塾」。日本を代表する著名な経営者たちを講師に迎え、受講生の若者たちにビジネス、経営、人生を語る人気のコーナーとして知られている。過去には、星野リゾート代表の星野佳路氏やソニーをV字回復に導いた元ソニー社長兼CEOの平井一夫氏など、錚々たる顔ぶれが講師として登壇した。

 その中には、不正会計疑惑で世間を騒がせているニデック創業者の永守重信氏もいた。時代を代表する経営者たちは何を語ったのか。『鉄人たちの仕事の哲学 「モーサテ塾」生きた経済を学ぼう』(かんき出版)を上梓したテレビ東京報道局プロデューサーの小林洋達氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──星野リゾート代表の星野佳路さんがモーサテ塾の講師として登場しています。星野さんは長野県軽井沢にある星野温泉旅館の4代目社長で、業績が悪化した各地の宿泊施設の運営を引き受けた結果、2025年には73の施設を運営し、4922人の従業員を抱えるまでになりました。カリスマ経営者としても名高い星野さんですが、どんな印象をお持ちになりましたか?

小林洋達氏(以下、小林):星野さん自身がさまざまな機会に述べていますが、星野さんの経営の特徴は「教科書経営」です。「感覚で経営をすると間違える」という意識を強く持っており、科学的な論文に基づいた経営を実施しています。

 旅館の経営を継いだ当初、従業員を募集しても人が来てくれなかったり、来てもすぐに辞めてしまったりと、リクルーティングに苦しんだことが星野さんの経営者としての出発点でした。やがて著名なアメリカのビジネスコンサルタントであるケン・ブランチャードの「シチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論)」と出合い、フラットな組織の考え方を全面的に導入し活気のある組織をつくりました。これが星野さんの教科書経営の原点です。

 星野さんは事業の課題を明らかにしてその課題を解決する論文を探し、読み込んで導入します。講義の中で「目の前にある問題を解決する論文が見つかるとキラッと光って見える」と語ったことが印象的でした。

 また、論文に裏打ちされた理論をもとに従業員を教育し、理論を投入した上で従業員に仕事を任せ、従業員が自ら判断することを促しています。人の感性を信じずに教科書を採用しながら、結果として人に任せることを実現しているのです。

──星野さんは、旅館を運営するが所有はしない「運営特化型」で事業をしています。

小林:それまでの日本の観光・宿泊業は、自分で施設(旅館やホテル)を所有して、自分の望む形に改築・改装して事業を展開してきました。これに対して、星野さんは所有は放棄して運営権だけを得て、その施設の魅力を高めます。

 それは、トレードオフを伴う活動を選択する星野さんの戦略です。施設を所有すれば、当たったときに利益を全部手にできます。星野さんたちはそのメリットを手放し、身軽な運営特化方式で展開のスピードを上げ、多くの施設を運営できるようになったのです。

 複数のトレードオフを伴う活動を組み合わせれば、他社が星野リゾートの戦略を真似できなくなります。これは、著名な経営学者、マイケル・ポーターの「ポジショニング・アプローチ理論」から学んだビジネス戦略です。こうした手法を最初の段階から意識的に取り入れていたことが、他の経営者たちとの違いだと思います。