米国が中東に空母増派へ。ギリシャのクレタ島にあるス―ダ湾に滞留する米海軍の空母ジェラルド・R・フォード(2026年2月24日、写真:ロイター/アフロ)
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(松本 太:一橋大学国際・公共政策大学院教授、前駐イラク大使、元駐シリア臨時代理大使)

「戦争を始める者は──いや正気の者であれば決して──その戦争によって何を達成しようとしているのか、またそれをいかに遂行しようとしているのかについて、まず心中に明確でなければならない」
(カール・フォン・クラウゼヴィッツ、『戦争論』)

「政治的目的が目標であり、戦争はそれに到達するための手段である。手段はその目的から切り離して考えることは決してできない」
(カール・フォン・クラウゼヴィッツ、『戦争論』)

「戦争の本来の目的は勝利であって、長引く優柔不断ではない。戦争において勝利に代わるものはない」
(ダグラス・マッカーサー将軍)

「宙吊り状態」のアナトミー

 2026年2月下旬時点で、米軍はUSSアブラハム・リンカーンおよびUSSジェラルド・R・フォードの2個空母打撃群と、それに随伴する十数隻規模の水上戦闘艦、さらに湾岸・イスラエルなどに分散した戦闘機部隊(少なくとも百数十機規模)を中東およびその周辺海域に展開させつつある。中東におけるこうした最大規模の軍事集結は、2003年のイラク戦争開戦以来のことである。

 トランプ大統領は「(イランに)核兵器も、濃縮能力も持たせない」と公言し、「合意が得られなければイランにとって非常に悪い日になる」とTruth Socialに書き込んだ。にもかかわらず、2月26日時点で開戦には至っていない。それはなぜなのか。この事実に関して、もちろん、「26日にもジュネーブで開催された米国とイランの間の外交交渉が継続されているからだ」と、さも分かりやすく答えることもできよう。

 しかし、この「宙吊り状態」は、単なる外交的逡巡や政治的優柔不断の産物ではない。それはまさしく、クラウゼヴィッツが2世紀前に喝破した「戦争の本質的な問い」に対する答えがホワイトハウスでいまだ見つかっていないことの論理的な帰結なのだ。

 本稿ではイランを取り巻く、この不思議な事態についてよく考えてみたい。なぜ戦争がいまだ起きていないかをあえて問うことによって、私たちは、イランをめぐる緊張の本質をより正しく理解できるだろう。