この構造を戦前の日本と対比させると興味深い示唆が得られよう。戦前の日本のいわゆる「皇軍体制」において、軍部は財閥を取り込み、統制することで、軍事のみならず重工業・金融・貿易という経済支配を一体化させた。三菱や住友といった財閥は軍需生産と不可分に結び付いた。広島および長崎への原爆投下をはじめとして、1945年のポツダム宣言受諾と天皇の玉音放送による降伏宣言がなければ、米軍による大規模空爆をもってしても日本の戦争継続能力とその体制を打破することは不可能だったとされる所以である。
イランのIRGCは、まさにこの構図を現代のイランにおいて、より大規模かつ複雑に再現している。だからこそ、シャルベル・アントンが(ナショナル・インタレスト誌)、IRGCによる権力の持続性を鋭く指摘するように、万が一、米国による軍事作戦によって最高指導者であるハメネイ師やIRGC幹部の一部が排除されたとしても、その翌朝、イランを迎えるのは解放ではなくIRGC内部での権力闘争となるかもしれないのだ。
IRGCはイランの軍事力の最高司令部であると同時に、最大の銀行、通信会社、石油開発、輸出業者であり、民兵組織バスィージを通じた民間統制機構でもある。米軍が空爆によりイランの核施設を破壊し、ミサイル基地を潰し、ハメネイ最高指導者や多くのIRGC幹部を暗殺したとしても、このシーア派イスラム主義をコアとするイデオロギー、軍事力、経済社会支配という三位一体の複雑な体制を即時に解体するには至らないだろう。
大きなリスク──空爆の限界、作戦継続能力、同盟国の協力拒否
すなわち、トランプ大統領が好む「短期間の劇的な空爆作戦」という手法は、対イランという文脈では、そもそも構造的な限界がある。米軍は核施設を破壊することはできるが、それは相手が再建できないことを意味しない。
ミッドナイトハンマー作戦によって、フォルドウ、ナタンズ、イスファハーンの3大核施設が攻撃された。しかしイランはその後、様々な核関連施設の再建や防空体制強化を進めており、数カ月で再建可能であることがすでに明らかとなっている(ロイターによるヴァンター社の衛星画像分析)。加えて、こうしたイランによる施設の急速な再建自体が、トランプ大統領の当時の勝利宣言とは裏腹に昨年6月の核施設空爆の効果が限定的であったことを示唆していよう。
米国の作戦継続能力に関して、大きな懸念の一つは、パトリオットやTHAAD、SM3といった防空システムの弾薬備蓄の枯渇問題にある。例えば、昨年6月の作戦でカタールのアル・ウデイド空軍基地をイランの弾道ミサイルから守るためだけでも、米国はパトリオット迎撃ミサイルを30発消費した。これは米国史上最大の単一使用量だった。
しかし、今次、イランが体制の存亡をかけた報復に出た場合、イスラエル情報機関の評価では現在の米軍備蓄で維持できる激しい空爆はわずか4~5日間、低強度の打撃でも約1週間に限られるという(Financial Times紙報道)。イランによる非対称戦略、すなわち弾道ミサイルによる飽和攻撃や安価なドローンによる攻撃は、米軍の高価なミサイル備蓄を消耗させ得るのだ。
イラン攻撃に関して、まさに米国の同盟国であるイスラエルの情報機関が米国の軍事能力の限界をそこまで喝破していることは目を引く。ウクライナへの支援で既に深刻なレベルまで消耗した誘導兵器の備蓄は、長期戦には耐えられないかもしれない。
加えて、帰結が予測できない地域の不安定化を嫌うアラブ諸国(サウジアラビア、UAE、カタールなど)は、その基地・領空の使用を拒否するシグナルを送っており、イスラエル以外の積極的な協力国は皆無に近い。同盟国の協力拒否は米軍にとって大きな制約となっている。
ペトレイアス元将軍が「ミッドナイトハンマー作戦で1機の故障も出なかったこと自体が奇跡だった。イラン上空でパイロットが脱出すれば、テヘランの街頭で米国人が引きずり回される映像が世界を駆け巡る」と語っていることをふまえれば、昨年のミッドナイトハンマー作戦時以上に、今回の作戦が大きなリスクとなることは自明であろう。