イスラエル中部ホロンでイランの反政府抗議運動を支持する集会が行われた際、デモ参加者によって燃やされたイランの最高指導者ハメネイ師を描いたポスター(資料写真、2026年1月14日、写真:AP/アフロ)
(松本 太:一橋大学国際・公共政策大学院教授、前駐イラク大使、元駐シリア臨時代理大使)
中東地域は極度の緊張に包まれている。今や、イランやイスラエルに向かう多くの国際線がその運航を止めた。
原子力空母USSエイブラハム・リンカーンを中核とする米軍空母打撃群はすでに中東に到着し、イスラエルは全防衛システムを最高警戒態勢に置き、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)司令官は「引き金に指をかけ、これまで以上に準備万端」と宣言する。最高指導者ハメネイ師は地下壕に身を隠し、トランプ米大統領は「大規模艦隊」の派遣を公言しながらも、攻撃のタイミングについては沈黙を守る。
この緊迫した対峙は、1月12日にイラン当局が全国的な反政府デモの制圧を宣言した直後から激化した。2週間以上にわたる抗議活動で6200人以上(イランの人権団体HRANAによる最新の数値)が命を落とした。インターネットと通信網が遮断される中で、革命防衛隊とバシジ民兵による容赦ない弾圧が展開された。トランプ政権はこの虐殺に対し、「さらなる殺戮があれば軍事介入する」と繰り返し警告してきた。
だが、今回の危機を単なる軍事的瀬戸際として捉えるのは、事態の本質を見誤ることになる。
英国の国際問題シンクタンク「チャタムハウス」のサナム・ヴァキル中東北アフリカ部長が鋭く指摘するように、トランプ政権の真の目的は「古典的な意味での政権交代」ではなく、「戦略的服従」(Strategic Submission)を強いること、つまり、イランの指導部に核開発の永続的制約、地域的役割の縮小、そして米国のレッドラインを越えれば即座にエスカレーションが起きるという現実を受け入れさせること、にある。
本稿では、昨年(2025年)末から始まったイランの大規模抗議活動の結果もたらされた、イランに対する米国による軍事的圧力の現状と、その戦略の本質を紐解くことによって、イラン・イスラム共和国体制がいかなる運命をたどり得るのか、一歩踏み込んで分析してみたい。